18人が本棚に入れています
本棚に追加
四.新たなる戦い
会社の上役に暴言を放つなどという一触即発もやむなしの状況に陥り冷や汗をかく葛西と、その姿に口元を緩ませる八重木だったが、その緊張感を軽々と破り、
「もぉ~、よしり~ん!お~そ~いぃ~」
高宮サオリが甘ったるい声を出して三波専務へと駆け寄り、腕を絡ませた。
「おいおいサオリ、会社のもんがいる時にその呼び方するなって」
「……は?」
「え?」
一瞬にして脳内の全思考を停止された二人が同時に顔を上げると、
「お前ら、会社のやつらには黙っとけよ。
言ったら次のボーナス無しな」
真上の街灯で頭頂部を光らせた三波専務が勝ち誇ったような笑みを浮かべてた。
「そんなのいいから早く行こうよぉ。
今日は豪華客船のナイトクルージングでしょぉ?」
「あぁ、そうだったな、もう時間だな。
また木見崎の社長がしつこくて遅くなってしまったよ」
「あの人嫌ぁい、
お茶出す時とか、ものすごいいやらしい目つきで胸元とか足とか見てくるのよぉ?
なんとかしてよぉ」
「まぁまぁ、大事な大口の取引先だからそうもいかないんだよ。
でもほら、あいつからせしめた売上で、これ」
「うわぁ、RDFのバッグじゃぁん!
ありがとぉ!
早く行こぉ行こぉ!
あ、二人とも、じゃあね!」
「じゃ、お疲れさん」
茫然自失の二人に言い残すと、いちゃいちゃともつれるように身を寄せ合いながら、四十近くも歳の離れた社内恋愛カップルは去って行った。
「…………」
「お、お疲れ様でした……」
「あ、そうそう、今度野球も連れてってよぉ、あれって面白いのぉ?」「はっはっはっ、二人で観れば何だって面白いさ」「やだぁ、よしり~ん」
公園の出口に差し掛かった二人から届く声に、
「何これ、マジかよ」
「くそ、いつの間にあのおっさん……」
「ちっ、飲みでも行くか、やってらんねぇな!」
葛西がボールを地面に叩きつけるが、
「……いや、これは……むしろ……」
眼鏡を光らせた八重木は、
「あの!!
専務!!
さっき専務の頭髪のことディスってたの、葛西ですからね!!
技術部二課の葛西裕一!!」
と、既に姿を消しつつある上役に大声で報告し、葛西をちらりと見て薄く笑った。
最初のコメントを投稿しよう!