第1話 空気が読めないカウンセラー 恩田 武

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全くうらやましい限りだ。こいつは昔から24時間以内の出来事が予知できる能力を持っていて、そのおかげでいつも株やFXで儲けてホストでは珍しく貯蓄や積み立てなど将来設計をしているそうだ。 「100株でも買わないか? 」 「イイよ。金なんて溜めるより使った方が経済的だし社会貢献につながる」 「お前馬鹿だな。これから先、年金、医療、介護問題が山積で俺たちの時代に年金貰える保証無いんだぞ」 出た出た、また説教交じりの話を始めると大抵、テレビで有名な某経済アナリストのババア並みのどうでもいい話を繰り広げる。 俺は灰皿に置いてあった折れ曲がったシケモクに火をつけて白い煙を天井に吐き出しながら無精ひげを触った。この時俺の気持ちは正直上の空だった。 「俺は良いよ。今はソロキャンプを楽しむのがいい。最近はYouTubeでいろんな便利グッツが紹介されているからな。」 お金がない癖に趣味につぎ込んでしまうのが俺の悪い癖だ。昔から貯金が嫌いで金があればすぐに使うのが鉄則だと思っていた。だから何時まで経ってもココから脱出することが出来ないのだが…… 「それより今度、一緒にキャンプ行かないか? 」 「俺は良いよ」 ピーンポーン チャイムが鳴る音が聞こえた俺は新作のゲームを買ってもらった小学生の様に慌てて玄関のドアを開けた。 すると中年の宅配業者のオッサンが大きい段ボールを抱えて立っていた。 俺はオッサンから荷物を受け取り、段ボールを獣が引き裂くようにして開封を行うと、新品のサバイバルセットを床にいくつも並べた。 この時翼はあきれた表情を浮かべながら帰ってしまったが、そんなこと気にせず俺は輝くアルミの食器をまるでダイヤを見るように満面の笑みで眺めた。
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