平和な世界

1/1

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

平和な世界

「リン、あれっ」 「あっ」 「おったぞー、スライム覚悟ー!」  小さな足音が沢山聞こえる。ただでさえ弱いスライム、魔力の落ちた今では、「狩りごっこ」という子供達がする遊びの餌食だった。  枝で体を突き刺される、殴られる。命を落とす者も数匹いた。 「ピキィー!」  草原で昼寝をしていると町から子供達がやって来て、私達を襲う。勇者が取り戻した平和な世の中は、私達にとっては平和なんかではなかった。  こんなところで死ねない――――  一心不乱に逃げる、魔王軍の生き残り、私はそれが誇りでもあった。いつかは魔王様復活。そんなことを信じて夢見ながら、他の仲間もそうだろう。だからその日が来るまでは、絶対死ねない。 「待てよスライムー」  子供から逃げるのも命懸けだ。 「キャーッ!!」  逃げ遅れた友達のスウが捕まった。スウは一瞬にして子供達に囲まれた。数人の枝を振り上げる姿が見える。  スウの泣き叫ぶ声と、鈍い濁音が何回も聞こえる。 「スーウ!」 「に、にげ……て、リン」  助けたいのに、助けられない。  魔王様健在の頃は全く逆の立場だったから余計だ……本当に情けない、悔しい……  私は友達のスウを見捨てて逃げてしまった――――
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加