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使者とエド爺
「フッレッアボール、フーレッアボール!」
翌日から私は嬉しくて辺りに魔法を放ち、周りの木々や芝を焦がしながら歩いていた。
「これこれ、リンや、あまり魔法を無駄に放ってはいかん」
「ごめんなさい、つい嬉しくって」
「気持ちは分かるがな、お前が燃やす木や草も生きておるのじゃ。それでは町の子供と同じになってしまうぞ、リン。魔法はここぞといった時に使うのじゃ、それが本当の魔法の使い方なのじゃよ」
「……はい」
「わかればよいのじゃ、ん?」
明るい春空をエド爺が見上げると、一羽の鳥が旋回していた。
その鳥は私達を見つけたと言わんばかりに舞い降りて来た。
――――鳥?
いや、あれは翼の生えた人だ。
近づくにつれてその形がはっきりとわかった。黒光りする体は鉄のような羽で覆われている、双剣を左右の腰に装備、筋肉質の太ももの先には鋭い爪の足。長髪をなびかせ、ゆっくりと降りてくる。クチバシのついたその威圧感はこの近くに生息する魔物ではないことも直ぐにわかった。
「大魔道士、エドワール・ド・ワーグナー教だな?」
「そ、その姿、ライン・ハルバルトか……」
この鳥人はエド爺の友達なのか? にしては二人の間に緊迫感が走っている。
ただならぬ空気、これは友達というよりも仲の悪い知り合いといった感じのほうが合っている。
「そこのスライムも聞いておけ、エドワール、遂に魔王様、復活だ!」
「「なっ!!」」
私とエド爺は目を向いて驚いた。
「ライン、それは誠か!?」
ラインはニヤリと、不気味な笑顔を浮かべると、手のひらをエド爺さんの頭にのせた。
「な、何をするっ」
「クックックック」
「エ、エド爺!」
「うわあぁぁぁ」
次の瞬間、エド爺の体が光始めたと思うと、曲がった腰がじわりじわりと真っ直ぐになっていく。
「ぁぁぁああああ!」
エド爺の体から光が収まったと同時に茶色いローブは黒へと変化し、生地の端には金色の装飾が施され、青白い眼が光る。どこか影のある外見は、もう爺さんとは呼べない程の青年の姿に変わっていた。
「復活されたばかりの魔王様のお力はまだ未熟、今は外見だけ元に戻した。魔王様の魔力が戻り次第、お前の魔力も昔に戻れるであろう」
「エ、エド……爺?」
「はぁぁぁあ」
急激な体の変化に負担が大きかったのだろう、疲れきったような表情でエド爺は、自分の両手を見つめている。
「このことを聞き付けた人族どもが勇者を送り込んだという噂も耳に入った。だが勇者もまだ未熟、発見次第討伐してもよいとのことだ。俺は残りの四天王を探しに行く、それまで力を蓄えておくのだぞ」
そういうと、ラインは翼を広げ、空高く舞い上がった。
「す、凄いじゃん、エ、エド……じ、爺?」
「爺でいいよ、リン」
細めた青白い目は、爺さんだったままの優しい目と、全然変わらなかった。
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