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魔王様?
見たことのない青年が歩いているのを発見した。
『このことを聞き付けた王族どもが勇者を送り込んだという噂も耳に入った』
ラインの言葉が頭を過る――――
あの男は、勇者ではないのか。
きっとそうだ、見たことがないし、人族の成りをしている。
『だが勇者もまだ未熟、発見次第討伐してもよいどのことだ』
「発見次第討伐してもよい」
勇者はまだ未熟、私は魔法を使える特別なスライム、今なら勇者を倒せるかもしれない。
もし倒せれば魔王様やエド爺がきっと誉めてくれる。
「フレアボール」
そう思った時、私の口は呪文を唱えていた。炎の玉が青年の背中めがけて跳んでいく。
――――当たれ!
バムッ!
私の放ったフレアボールは青年のマントに弾かれて消えた。
「っっ!」
効かない、青年は私に気がつき歩いて来る、私も逃げるわけにはいかない体当たりして怯んだ隙に至近距離でもう一度呪文を打ち込めば、必ず勝てるはず、私は体制を低く身構えた。
近づく青年、まだだ、もう少し引き寄せて、引き寄せて……
――――今だ!
「魔王様!!」
「え?」
その声で飛びかかるのを止めた、後ろから走って来たエド爺は、私の隣で膝をつき、頭を下げた。
「こ、こんな場所まで偵察を……ま、魔王様、此度の復活、誠におめでとうございます」
「うむ……エドワール、久しいな」
「え、え、え? 魔王様? この人が?」
よく見ればこめかみ辺りから二本の角が伸びている。
ヤバい、間違えた――――
「ほう、スライムか……」
「こら、リン! 無礼だろっ」
「あっ、も、申し訳ありません!」
「この魔王にフレアボールを放つとは、なかなか度胸の座った者とみえるな……覚悟は出来ているのであろう?」
途轍もない威圧感、体の奥から抉り出されるような声、
「リン! お前なんてことをっ……」
これにはエド爺も「助けられない」と、顔を歪める。
ああ、終わった……
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