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優しい瞳
「し、死んでお詫びします」
こうするしかない、分からなかったとはいえ、悪いのは私、確認もせずに魔法を使った罰だ。
やっとお目にかかれた魔王様とはこれきり、やっと覚えた魔法も、一度も正しく使えなかった……
下に向かい呪文を放てば自分を攻撃できる。せめて痛みを感じずに木っ端微塵になろう、最大威力で……
エド爺は、下を向いたまま動かなかった。
――――ごめんね、エド爺。
――――さようなら。
「フレア、ボール」
バボンッ!!
あれ?
息ができる――――
目を開くと、高い目線。
エド爺さんの頭が見える。
「何をやっている、スライム」
魔王様の声……
上を見れば角の生えた魔王様の顔があった、それで気づく、私は魔王様の腕の中にいる。
「わ、私は、死んでお詫びを……」
「そんなことをして我が喜ぶと思うたか?」
「でも、こうでもしなくちゃ、詫びようがないので……」
「今お前に死なれては困る。勇者を倒す魔物は一体でも多いほうがよいのだからな」
魔王様の赤い目は優しく弧を描いてくれた。
「で、でも……」
私の全力魔法のせいで魔王様の右足は膝から下がほとんど吹き飛んでいた。
尋常ではないほどに血が流れ出ている。
「グッ……」
膝が折れ、体制を崩した魔王様は、燃える芝に右手をついた。魔王様の表情が強ばる、左手に力が加わり厚い胸板にきつく押し付けられる、まるで大切なものを守るように。おかげで私は火の中に落ちることはなかった。
「お前は我の為に魔法を使い、我の役に立とうとしたのであろ? ならばこれくらいの痛み、痛いとは思わんわ、我を誰だと思っておる、魔族の王だぞ、ハハハ」
魔王様もまた未熟――――
そう笑った魔王様の表情は一瞬、痛みに歪んだように見えた。
「魔王様……」
「魔王様っ、ハイウインド!」
エド爺が風の魔法で火を一瞬で消す。私は魔王様からエド爺さんの腕の中に移った。
「完治までとはいきませんが……」
エド爺が魔王様の足に手を伸ばす。
「エドワールよ、回復は要らん」
魔王様は円状の魔方陣を足元に作り出す。
「スライム。その力……よく頑張ったな。勇者討伐、期待しておるぞ」
「魔……」
私が声を出した瞬間、優しく微笑んで魔王様の姿は消えてしまった。転移魔法というやつだ。
とんでもないことをしたうえに、お礼も言えなかった。私の目からは大粒の涙が溢れ出ていた。
――――魔王様、私、倒すから、絶対勇者倒すから!!
――了――
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