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魔王がいるとされた場所は、それはもう仰々しく禍々しい場所だった。いつもの悪魔との時とは違う冷たい汗が流れる。私は緊張しているのだろうか。剣を抜き呪を込め、中に入る。
こいつが……魔王。
私の10倍はあるであろう大きく黒い何か。私が入っても見向きもしない。チャンスと思って、私は斬りかかる。しかし――
「――ッ!!」
何か黒い霧のようなものに阻まれ飛ばされてしまう。何度やってもそれは変わらない。ひとりで殺るのは無理なのか。出来ないのは分かっていたが、ここまで来たのに。こんなのじゃ死んでも死にきれないではないか。
この状況に嫌気がさしたのか、魔王は翼を広げ飛ぶ態勢を整えて始めた。このままじゃ逃げられてしまう。でももう身体は限界だ。
どれだけ時間を稼いだ? 組織の人間はあとどのくらいで着く?
もう体内時計さえ狂いに狂っている。今まで以上に身体がふらつく。あと一度斬りかかれば限界を迎えそうなほど。とにかく、逃げられるのを止めないと……。そうすれば少しは報われるはずだ。華やかな最期、素晴らしい最期を遂げられずとも任務は達成できる。
今は飛び立とうとすることに力を使っているのか、近づいても何もやり返されない。今の私では何もできないと踏んでいるからかもしれないが、それはどうでもいい。とにかく、チャンスだ。
その時――翼を広げ魔王はふわっと飛び上がった。あと少し、あと少しで届くのに……。力を振り絞って走り、私は地面を蹴った。思い切り剣を振り上げ、突き刺す。やっと剣が届いた。
魔王は剣が突き刺さったと同時に咆哮を上げ、暴れ、地面に墜落する。
やった……この負けることが許されない戦いを、私の最期に見合う戦いにすることができたのだ。
しかし嬉しさも束の間、私はふらついて倒れてしまう。その目の先に見えたのは、かろうじて動く人のようなもの。多分組織の人間だ。あとは魔王を殺ってくれるだろう。
かろうじて像を映していた目ももう見えない。……いや、何だろう。何かが見える。これが走馬灯というのか。あぁ、これは――
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