最期の像

1/3
前へ
/3ページ
次へ
「はあ、はあ…――」  全身が痛い。意識が朦朧とする。血がとめどなく溢れる。  力を使うとすぐこれだ。私の身体はあとどのくらい持つのだろうか。明日……いや、今日にでも死んでしまうかもしれない。髪はもう真っ白に染まり、男とは思えぬほどに身体はやせ細っている。  ただ、これも仕事だ。……違うな。これじゃ死事だ。組織に入る前からこんな最後になるとは分かっていたが、いざ訪れようとした時、なんて虚しいのか。数々の死体の上を歩いてきた私には看取ってくれる人も無く、ひとり戦場で死ぬ。今まで仲良く話したことがあるのは一人しかいないほどだ。  か弱い普通の人間ごときじゃ倒せなくなってしまった、悪魔共。人間を襲い魂を貪る奴らを倒す組織は、稀に生まれてくる悪魔を殺す能力を持った人間たちで構成されている。私もその一人だ。と言ってもその能力は、身体に多大な影響があり、使う度に死へ近づいてく。能力を持って生まれた必然(うんめい)だというのか、私の仲間は皆、30代程で死んでいった。  最近は力を使うとより一層、影響が出ている気がする。こんな時、皆はどういう気持ちだったのだろうか。死の宣告をされて、正気を保っていられたのだろうか。  いや多分……何も思わなかったはずだ。私も、何も思えない。ただ、もうすぐ死ぬのかと考えるだけだ。こんな仕事をしていて、精神がまともな奴がいるわけないか。そう考えて、私はひと時の休息を楽しんだ。  すぐに新たな場所へ向かわねばならない。先の事は考えず私は連絡を待つ。すると突然、連絡機が鳴った。仕事の連絡だ。私はすぐにスイッチを入れ内容を聞く。それは恐ろしい内容だった。  悪魔の頂点、魔王が現れた、と。ただ確認された場所の近くにいるのは私だけだそうだ。出来るだけ戦っておけと、命令を受けてしまった。きっと……いや、確実に私は死ぬだろう。ただでさえ次の仕事で死ぬと思っているのに、それが魔王ともなれば確定された未来になる。しかしそれ故に、素晴らしい最期を遂げられると心が躍った。ただの悪魔ではない、その頂点と戦って死ねるというのだ。私は一刻も早く向かわねばならないと、足早に指定された場所へ向かう。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加