浅き夢見し頃に囚われて

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「大丈夫?そろそろ支度しないと間に合わない時間なんだけど。」 「ええっと、大丈夫です。動けます。」  無理させちゃってごめんね、と全然反省していないような様子で笑う彼に苦笑いする。  あのあと、どこが彼の琴線に触れたのかはわからないが、昨晩の続きと相成った。どうやら夢だと思っていたのは現実で、昨晩はこうだったでしょ、本当はこうしたいんでしょ、と散々なお言葉を頂戴することになった。夢だと思ってたからできたのであって、現実だと知ってたらやらなかった、という台詞が喉まで出かかったが自分が悪いので黙って受け入れることにした。実際、本心はどうなのかと問われたら否定できなかったから。なお、ゴムはちゃんと着けてもらった。  本当に、イケメンじゃなかったらグーパンしてる。 「あ、ピルこれです。」 「これがそうなんだー、なんだ残念。」  なんですかそれ、と言いながらシートから1錠とって常備している水とピルを口に放り込む。シャワーは先に浴びさせてもらってあって、彼が出てくるまでに支度は終わらせておいた。化粧は諦めてる、化粧直しのモノしか鞄に入れてないから念のために入れているマスクを着けて完成だ。  面倒くさい女と思われたくないから、目の前でピルを飲む。いつも飲み忘れないように朝飲むことにしていた、というのもある。……大丈夫だとは思うけど次の生理が来るまで怖いなぁ、なんてぼんやり思いながら鞄を持つと彼に促されて部屋を出た。 「いろはちゃん、またね。連絡する。」 「あはは、お待ちしています。」  社交辞令を交わすと、彼と別れた。駅近くのラブホテルだったから、大したことを話さず別れることになってしまった。だから、困ったことになってしまった。 「名前、わかんない……。」  連絡先は交換したんだよね、とスマホを確認したら『だーりん♡』と登録しているわけわからない人が3人くらい居た。なんだこれ。メッセージアプリは交換しなかったっけ、と思ったが最近合コンラッシュだったので、『新しい友達』欄に人が多すぎて誰なのか分からない。お手上げだ、と天を仰いだ。  一晩を共にする、というのは多くはないが初めてではない。でも印象に残った、気になる男から連絡が来ても分からないのは、もったいないなと思った。
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