浅き夢見し頃に囚われて

9/16

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 私と達己は月に2回くらい、土曜日の夕方から日曜日の朝まで過ごすことが定番となった。といっても、まだ3カ月くらいの話だ。今は夏真っ盛りで、そろそろお盆がやってくる。そのお盆前の休日は、達己と会って素っ裸でのんびり会話していた。 「いろはって、盆休みは実家帰るの?」 「いや、実家近いし最近帰ったばっかだからどっか出掛ける。」 「おひとり様?」 「そうそう、宛てもなくぶらぶら出掛けるの。悪い?」  マジでおひとり様なんだ、とくつくつと笑う達己の腕をぺしりと叩いた。  私は一人旅行が好きだ。宛てもなくぶらぶらして、良いお店を見つけられるとすごくうれしくなる。とはいえ、後から調べたら雑誌に取り上げられてる有名店という事も少なくないのだけど。  今度はどこに行こうかな、少し足を延ばして北海道まで行ってしまおうか、それとも敢えて大阪に行って食い倒れツアーを敢行してもいいかもしれない。そんなことを考えていて、ふと達己を見たら何か言いたそうな不味いモノでも食べたかのような微妙な表情をしていた。 「なに?お土産が欲しいなら買ってくるよ。」 「いや……、せっかくなら俺とも時間作ってくれない?」 「いいよ、いつにする?できれば中日は避けて欲しいけど。」  それとも、と言いかけて口をつぐんで俯いた。私は何を言おうとしたんだろう。そんな、一緒に出掛けないか、なんて恋人みたいではないか。そもそも私と達己はセフレで、そんな関係ではないのに。 「それとも、って何?」 「いや、なんでもない。いつにする?」 「何なら、一緒に出かけてしっぽりする?」  しっぽりってエロい、と茶化すような言い方をしながら内心心臓がばくばくしていた。思っていたことを達己が言ってくれて、舞い上がる自分を抑える。これはいつもの延長線上だ、いつもと違う場所に出かけてエロいことをするだけだ。  私が誤魔化したのを感じたのか、達己は何も言わない。だから、私はなるべく明るくおどけて言った。 「ぼっちな達己くんのために、いろはちゃんが最高の旅行をプロデュースしてあげようではないか。」 「ぼっちじゃねぇよ。でもほら、一人が好きなんだろ?」 「いや、別にどっちでも。達己が来たいなら、一緒に行くんでいいよ。」  強ばっていた空気が、霧散した。ほっと息を吐きながら、正解を導けて良かったと安心した。 「ねぇ達己、どうせ2人ならUSJとか1人で行けないところ行きたい。」 「え、USJもおひとり様するんじゃないの?」 「そこまで神経図太くないよ、殴るよ?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加