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ふたたび爆発音が聞こえ、車体の後部が一瞬もち上がった。天井に片手を突いてバランスを保っていたハナコは、車が地面に落ちる衝撃をなんとか耐えきり、足元に置いてあったバックパックから、ありったけの手榴弾を取りだした。
「おいおい、なにする気だ?」
信じられないという顔でハナコを見るマクブライト。
「あたしは、銃としつこい男が大嫌いなんだよ!」
ハナコはサンルーフガラスを開き、手だけを出して、今までのお返しとばかりに次から次へと手榴弾をデザートバギー目がけて放り投げていった。
べらぼうな攻撃の甲斐もあって、爆発の衝撃で二台が吹き飛ばされたが、それでもゲイを乗せたデザートバギーだけが怯むこともなく車を追ってくる。
拡声器をかまえかけ、それを落としたことに気がついたゲイは舌打ちをし、ハナコに向けて、親指で喉元を切り裂くジェスチャーをしながら口の端を歪め、そしてまた発砲しはじめた。飛礫があたるような音が再び車内に響き渡る。
「どうする?」
「心配するな、もうちょっとで止まる」
「あ、なんでだ?」
マクブライトの余裕にイラついていると、言ったとおり、ウソのように音が止んだ。
「弾切れだよ」
したり顔のマクブライトを横目に後方を見ると、弾丸の切れた銃を放り投げたゲイがなにやら操縦手に耳打ちをしていた。操縦手はその内容に驚愕したのか、もげてしまいそうなほど強く頭を振る。
ゲイがため息をついて、懐から取りだしたアイスピックを逆手にかまえ、操縦手の首へと突き刺す。鮮血を吹き上げる首筋をおさえながら操縦手がデザートバギーから転がり落ち、ゲイは慌てる様子もなく運転を引き継いだ。
そして、スピードを上げたデザートバギーが、猛獣の唸り声のような音を立てながら車を目がけて突進してきた。
「心中する気か?」
トキオの叫びとともにデザートバギーが後方から衝突し、その衝撃で体勢を崩したハナコは、助手席にふたたび額を打ちつけた。
マクブライトの操縦でなんとか車は体勢を整え、後方にはボロ雑巾のように大破したデザートバギーが見えた。
「消えた……」
鼻を強打したトキオが、涙目で言う。
「この車はちょっとやそっとじゃ、壊れない仕様になってるんだ。あの野郎も――」
したり顔で言うマクブライトの言葉を遮るように、天井に何かがぶち当たる鈍い音が響いた。
「嘘だろ……」
天井を見上げ、絶句するトキオ。
つられて見上げると、視線の先には、サンルーフガラスにへばりつくゲイの姿があった。
額でも切ったのか、顔中を血だらけにしながら笑うさまは、まるで赤鬼のごとき形相になっている。ゲイは唖然とするハナコたちを舌なめずりしながら見回し、ガラスに額を何度も叩きつけ始めた。
「くそっ!」
動揺を隠せないトキオが、ベルトから抜き出した拳銃をゲイへと向ける。
「やめろ。あれも防弾ガラスだ。跳弾でおれらがケガするどころか、こんな狭いとこでぶっ放されたら、全員の鼓膜が破れちまう。みんな、どこかへ掴まれ!」
マクブライトの言葉で、ハナコはドアにつけられたサイドバーに腕を回し、未だ諦めることなく額を叩きつけ続けるゲイを見上げた。正気を失っているのか、ゲイはほとんど白目のようになり、愉快そうに口をさらに大きく開け、ゾッとするほどの笑い声を上げている。
「やるぞ!」
マクブライトが叫び、大きなブレーキ音をあげて車が急停止した。
突然の衝撃でハナコは三度額をどこかへ打ちつけ、それでもなんとか気を保ってサンルーフガラスを見上げると、そこに狂乱のゲイの姿は見当たらなかった。
「前だよ」
ハンドルを握ったまま唖然とするマクブライトが言う。
見ると、フロントガラス越しに、赤い砂礫の上に大の字になったゲイの姿が見えた。
「死んだか?」
誰にともなく呟くと、トキオが
「ヤツは、ちょっとやそっとのことじゃ死にませんよ」
と力なく、諦めたように応えた。
「ハナコ、確かめるか?」
「……いや、やめとこう」
何度も打ちつけたせいで早くも赤く腫れ上がりかけている額をさすり、ハナコはマクブライトに首を振って、ふたたびゲイを見た。
そして――
「嘘だろ……」
――眼前の光景に慄然とするハナコ。
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