46:ムラト・ヒエダ

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「どう考えても罠としか思えないんだけど」 「罠など張らんさ。。娘の身を案じるのが親の務めだろう?」 「ネタは割れてるって言ったろ、あんたバカか?」  いいかげん苛ついてきたハナコに笑みを浮かべたムラトが、「概ね正しかったことには感心させられたが、残念ながら君たちの推理にはいくつかの誤りがある」と言った。 「それもご丁寧に教えてくれるわけ?」 「そうだな、に教えてやろう。先ほども言ったとおり、わたしは君たちを信用することにしたからな。そこのきみ――」  ムラトがトキオへと視線を移す。 「――すまないが、胸ポケットに入っている物を取りだしてくれ」  トキオが緊張しながらもムラトの頼みに従って胸ポケットから取りだしたのは、古い銀色のロケットペンダントだった。  それを受け取って開いて見てみると、そこには填められていた色褪せたセピア色の写真には、若かりし日のムラト、その妻であろう容姿端麗な女性、そして二人に挟まれるようにして、アリスに生き写しの少女が映っていた。 「これは?」 「わたしが、アリスの実の親であるという証拠だ」 「でも、アリスはあそこで――」 「それもまた事実だ。そこにいるアリスはアンバ山の秘密研究施設で造られた。」  度重なる残酷な真実に、アリスが小さくうめき声を漏らす。振り向いて目顔で「大丈夫か?」と訊ねると、青ざめながらもアリスは気丈に首を縦に振った。 「分からない、なんでわざわざあんたの娘を?」 「あそこで、一度は頓挫した《プロジェクト・アリス》を続行していたのだよ。もともとの《プロジェクト・アリス》が始動したのは《以降》の、《第二次プロジェクト・ピクシー》が凍結されてから間もなくだ。その当時の被験者がだった」 「超能力者(サイコキネシスト)でも造ろうとしてたってのか? だとしたら、タチの悪い絵空事だぜ」  マクブライトが忌々しげに言う。 「そうではない。アリスにはそもそも超能力者――研究していた者たちは《干渉者(エフェクター)》と呼称していたらしいが、その素質があった。そして《プロジェクト・アリス》は、《干渉者》が有する《干渉力》を軍事利用するための計画だった。だが生憎と当初の計画は失敗し、その際の事故に巻き込まれたアリスは、憐れにも命を落とした。奴らは悪魔だよ」 「アリスを計画に利用させた時点で、あんたも十分に悪魔だと思うけどね」 「……アリスが十二歳の時、《干渉者》としての力の発露が見られるようになってな。力の制御ができず、日常生活にも支障を来すようになり、わたしと妻はほとほと困り果てていた。幸いにも――実際は幸いでもなんでもなかったわけだが――《プロジェクト・ピクシー》に関わっていたヒサト・メンゲレは脳医学の権威だったので、それを相談していたのだよ。相談から間もなく、アリスは治療のために軍の特別病棟に隔離されたのだが、それがわたしをたばかるための虚言だと知ったときには、すべてが後の祭りだった」 「それで、政府から去ったってわけ?」 「私怨だけがその理由ではないがな」 「あの、いいですか?」  ずっと黙っていたトキオが恐る恐る口を開く。 「それだけが理由じゃないとしても、アリスのことが原因の一つとして《赤い鷹》をつくったんだとしたら、アリスを戦争の引き金として使うことに、ためらいとかはないんですか?」 「……見事に核心を衝くな。だが先にも言ったとおり、組織は今や一枚岩ではない。そして《赤い鷹》は、アリスの《干渉者》としての力を使用することを是とする者が圧倒的多数を占めている」 「それでも、クローンとはいえ、アリスはあなたの実の娘なんでしょう? あの機械にまたアリスを殺させる気ですか?」 「君たちの推理にはいくつかの誤りがあると言ったが、あと二つばかり重大な誤りを教えてやろう」  トキオに応えるムラト。
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