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「そう、〈干渉者〉は一人ではない。いや、正しくは一人ではなかった」
言って、ヒサトが笑みを浮かべた。
「〈プロジェクト・アリス〉が発足した当初、全国からあつめられた〈干渉者〉は実に二十八人。かれらの共通点は二つ。すべての〈干渉者〉はそのとき十二歳であり、そしてかれらはその十二年前、まだ帝国支配下当時の首都、現在の〈クニオ九番街〉で産まれたということだ」
「そんなのが〈干渉者〉の条件なわけ?」
「因果関係は定かではないが、かれら〈干渉者〉がまだその母親の胎内にいる頃、戦時下にあった首都に一つの化学兵器が使われたのだよ。その名を〈キンブルガス〉という」
「なんだそれは? 聞いたこともないぞ」
マクブライトが言う。
「〈キンブルガス〉を使用した事実は闇に葬られたからな。あれは、その当時、帝国側の天才科学者だったドクター・キンブルが発明した科学性の毒ガスだ。あの毒ガスの使用により、数多くの死者が出たが、ほんとうに恐ろしいことが起きたのは戦争の終結後まもなくしてからだった。〈キンブルガス〉にさらされながらも生き延びた人々のなかに、あらゆるかたちで後遺症を発症する人々が出てきたのだよ。そして、そのあと誕生した子どもたちの多くには、さまざまな染色体異常が見られた。〈干渉者〉もまたそのひとつだ。その影響を重く受け止めたクニオ・ヒグチは首都を移転させ、そして首都の四方を壁で囲み、〈クニオ九番街〉という名の隔離区域にしてしまった」
「あの壁は、そういうことだったのか」
「そうだ。さて、そろそろ本題である〈干渉者〉の説明にうつろう。あつめられた二十八人の〈干渉者〉はそれぞれ〈干渉瘤〉が発生した部位と、それに伴った〈干渉力〉の能力は別物だった。主に〈干渉力〉は七つに分類できた。アリスは〈分類第二型干渉力――手〉と呼ばれる力の持ち主だ」
「〈手〉……」
アリスが呟いた。
「そう。君の力はそう呼ばれていた。いわゆる念動力だ。第一型は〈耳〉、これはいわゆる読心能力。第三型は〈目〉、これは予知能力。第四型は瞬間移動のできる〈足〉。第五型は〈火〉、これは――」
「ちょっと待て――」
マクブライトが口を挟む。
「――おれが訊いているのは〈干渉瘤〉が〈干渉力〉を発生させているという根拠だ」
「気短な男だな。とにかく、七種に分類された〈干渉者〉は、それぞれ異なった部位に〈干渉瘤〉が発生していた。セイ・ダノンは〈分類第一型干渉力――耳〉の〈干渉者〉だった。そして、集められた〈干渉者〉の中には、彼女のほかに〈耳〉の力を持つ者が十人いた。最も多い能力だったといえるな。彼らはみな一様に側頭葉の横側頭回にある聴覚野に〈干渉瘤〉が発生していた。その当時、わたしもきみと同じく、その腫瘍状のものが〈干渉力〉と関係しているとはとうてい信じられなくてね。それを証明しようにもどうにもしようがなかった。そこで、わたしは考え方を変えることにしてみた。〈干渉者〉が〈干渉瘤〉を失うと同時に〈干渉力〉もまた失うことならば証明できるのではないか、と」
ヒサトの言葉に、ハナコはセイ・ダノンの側頭部にあった古い手術痕を思い出した。
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