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「つまり、その〈干渉瘤〉を切り取ってみたってこと?」
「そのとおり」
ヒサトが笑む。
「その結果、わたしはそれを証明した。セイ・ダノンはわたしの予想どおり〈干渉瘤〉の切除後、まったく力を使用できなくなったのだよ。もっともそれを証明するために七名の〈耳〉の犠牲は要したがね」
「人間のすることじゃない」
トキオが嫌悪感をあらわにして、眉間にシワを寄せる。
「分かっていないな。わたしはセイに恨まれるどころか逆に感謝さえされていたのだぞ。のちの研究過程で、〈干渉力〉を過度に使用した〈干渉者〉のうちのほとんどが〈干渉瘤〉の破裂により、二十回目の誕生日を迎えぬまま死んでしまったのだからな。セイは〈干渉力〉と引き替えに人生を手に入れたのだ」
「でも、あのおばさんも、結局はアリスみたいに鳥かごの中にずっと入れらていたんだろ。そんなのは人生なんかじゃない」
「人生についての見解は人それぞれだよ」
ふたたび〈帽子〉をアリスの頭上に掲げるヒサト。
「そして、のちにわたしは〈帽子〉を製作したのだが、この装置についてもすこしだけ説明しておいてやろう。セイ・ダノンその他の〈干渉者〉から切除した〈干渉瘤〉を解剖した結果、非常に興味ぶかいことが判明してね。〈干渉瘤〉は米粒大の小さなものだったが、その内部にシナプスによく似た神経組織が確認できた。そして驚くべきことに〈干渉瘤〉内で発生するイオン電流はその他の脳の各器官のシナプス内で発生するそれの実に約九十倍にも達していた。それが〈干渉力〉とのあいだにどういった因果関係があるのかまでは分からなかったが、ともかくわたしは数十パターンのパルス信号を直接脳内に送り込むことで、〈干渉瘤〉内に発生する過大なイオン電流を、強制的に極限にまで抑えこむ装置、〈帽子〉を発明した。といっても、これは〈第二次プロジェクト・ピクシー〉の一翼を担っていた際に兄が製作した〈隔絶二者間脳波部分同期装置〉の原理を利用した代物なのだがね。〈隔絶二者間脳波部分同期装置〉とは、〈第一次プロジェクト・ピクシー〉において、脳の一部が機能不全に陥り暴走著しかかったピクシーを制御し、そして操作するため〈第二次プロジェクト・ピクシー〉の最重要課題として作られたものだ。仕組みを分かりやすく言うと、ピクシーの脳内に埋め込まれた電極チップに、操作者の意思を疑似脳波として送りこみ意のままに操るための装置だ。とはいっても、完全に同期した際の操作者側への負のフィードバックを防ぐために、部分同期というかたちでの操作だったわけだが。ここでいう部分同期とは意思だけをピクシーと同じくする状態のことを言う。つまり、己の身体のようにピクシーを動かすのではなく、例えば、『目の前の敵を殺す』といったような命令をピクシーにくだすと、ピクシーはその命令を自分の意思として実行する。まあ、結局は〈隔絶二者間脳波部分同期装置〉をもってしても、ピクシーの暴走状態を制御することは叶わなかったわけだが……とにかく、わたしが作り上げたこの〈帽子〉はその原理を利用し、〈干渉者〉の脳に電極チップを埋めこむこともなく、〈干渉瘤〉から出るパルス信号を抑えこむことが可能なように調節した機械だ。故に、〈帽子〉を装着することによる〈干渉者〉の脳への負担はほぼ皆無と言っても過言ではない。〈帽子〉の装着中には〈干渉力〉を使用できなくなるという難点はあるが、しかしアリスの身の安全を考えるのならば、それが最善策だ」
「……とにかく、その〈帽子〉を着ければアリスの脳への負担は減るってわけだな」
マクブライトが言う。
「ああ、そのとおりだ」
正直、ヒサトの言っていることは難しすぎてハナコにはよく分からなかった。だがしかし、〈帽子〉がアリスに及ぼす効果が、本当にヒサト・メンゲレの言うとおり物凄く低いということならば、装着させるのがアリスのためにもなるのじゃないか、と思った。
だが、その前にひとつ確認しておきたいことがある。
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