46人が本棚に入れています
本棚に追加
「あたしたちが出くわしたピクシーも、そのカクゼツナントカって機械でシロー・メンゲレに操られていたの?」
「〈隔絶二者間脳波部分同期装置〉だ。断定はできんが、恐らくはそうだろうな。むしろ、あの他者を自由に操作できる〈隔絶二者間脳波部分同期装置〉こそがピクシーの本体だと言っても過言ではない。さっきも言ったが、そもそも〈第二次プロジェクト・ピクシー〉の段階においてでさえ、脳波の部分同期に関しては一〇〇パーセントと言えるレベルではなく、人格や意思を消し去ったはずの強化兵の自我が暴走することも稀ではなかった。さらにピクシーとして戦闘に投入されてから三日後には、一つの例外もなくすべての強化兵が、〈第一次プロジェクト・ピクシー〉の時とどうよう、脳の劣化により操作すら困難な状態になってしまったのだよ。それこそが〈プロジェクト・ピクシー〉における失敗と言われるものだ」
「完全には操りきれないってことか……」
言われてみると、たしかに心当たりがある。ツラブセでの時も、アンバ山での時も、ともにピクシーは一瞬だけなにかに気を取られ、その隙をついて攻撃することができた。あの時は必死だったから、その不自然さに気がつけなかったが、シロー・メンゲレ自身がピクシーではないということならば、その説明がつく。
「こりゃ、マズイかもしれないですね」
トキオが言う。
「つまり、ピクシー自体は操られているだけの存在ってことですよね? ってことは、アンバ山でピクシーを倒せたにしても、操っていた本体のシロー・メンゲレはまだどこかで生きているってことになるじゃないっすか」
「奴はまだアリスを狙い続けているってことか」
「まあ、どちらにしろ今すぐに奴が行動を起こすとは到底かんがええられんがな」
ヒサトがかぶりを振る。
「ピクシーを一体つくるのには莫大な時間と予算がかかる。〈プロジェクト・ピクシー〉凍結の最大の理由はそこにあるのだよ。ピクシーがシロー・メンゲレ本人でなかったとして、二体目のピクシーまで用意しているとは思えん。それに、強化兵の被験者として適合できるほどの者が、そうそういるとも思えんしな。もし仮に奴がつぎの強化兵候補を見つけ出したとして、それを〈ピクシー〉として改造するまでには、少なく見積もっても三年はかかるだろう。それほど〈ピクシー〉とは繊細な代物なのだよ。人間の脳を完全に制御することなど、誰にも不可能なのかもしらんな。あれは完全な失敗作だよ。改善策など存在しないだろう」
失敗作か。
確かに三日で使い物にならなくなる強化兵を作り続けることには、なんの意味もないのだろう。
だが、一抹の不安が胸に渦巻いている……
最初のコメントを投稿しよう!