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50:決着
『ひとつ提案をしよう』
シローが、ハナコに向けて左手の人差し指を立てた。
『大人しくアリスを渡せば見逃してやってもいい。どうだ、悪くないだろう?』
「ふざけるな。アリスはわたしのものだ!」
身の危険すら察せないほどに怒るヒサトが割って入る。
『……相も変わらず愚かな弟だな、ヒサト』
ピクシーの太い腕が素早く伸び、ヒサトの首を鷲掴みにした。
『残念だが、貴様は見逃すリストには入っていない』
「や、やめ――」
――懇願虚しくマッチ棒のように首を容易く折られてダラリと四肢を揺らしたヒサトをピクシーはためらうこともなく〈マッド・ハッタ―〉に叩きつけた。つぶれた〈マッドハッター〉の上で、無惨な姿になったヒサトの見開いたままの目が、ジッとハナコに何かを訴えかけているようだった。
『あー、スッキリ、スッキリじゃ』
シローの呑気な声とともに、ピクシーが満足げに肩を回す。
ハナコは我に返り、
「てめえ!」
特殊警棒をピクシーのこめかみに思うさま打ち込んだ。
ピクシーは何事もなかったかのようにハナコに視線を向け、
『交渉は決裂か。残念だよ、ハナコ』
と、呆れたようなシローのため息が漏れた。
「名前で呼ぶんじゃねえ!」
無謀なこととは分かっていながら、ハナコはピクシーの鳩尾に二撃目を入れた。
『だから、無駄だと言っているだろう』
ビクともしないピクシーがハナコの右手首を掴む。ゆっくりと強まる握力に耐え切れず、ハナコは特殊警棒を手から放した。尚も握力は強くなり、ハナコは気を振り絞って、残った左手や足で掌底と蹴りの連撃をピクシーに打ち込んでいった。
『無駄だとなんど言わせ――』
――突然の爆音とともに、ピクシーが吹き飛ぶ。
ピクシーから解放されて膝をついたハナコに、
「おうおう、大丈夫か?」
眉根を上げて訊くトラマツの右手――〈射出機能内蔵義手〉からは、白煙が立ち昇っていた。
「あの黒ずくめ、さすがにおれさまの一撃には耐えられなかったようだな」
「……あんたのソレ、とんでもねえな」
腕の感触を確かめてから、ハナコは特殊警棒を拾い上げて立ち上がった。
「これで死んでくれたら、いいんだけど」
木刀を肩にトントンと当てながら、リンが勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「あんたらと共闘することになるとはね」
半ば自嘲するように笑って見ると、すぐに瓦礫の山が吹き飛んでピクシーが土煙の中から姿を現した。
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