50:決着

5/5
前へ
/163ページ
次へ
「やったか?」  ハナコのもとへ来たマクブライトが訊く。 「あんたは大丈夫なの?」 「ああ。右腕とあばらを何本かやっちまってるみたいだが、なんとかな」 『そんなバカなことがあってたまるか。ピクシーは最強だ』  ピクシーのスピーカーからシローが叫ぶ。 「終わりだよ、これで」 『ふざけるな……ウッ…ギギギギッギギ……ゲボゲボゲボゲボ!』  断末魔を上げながら反吐を吐くシローの通信が、数回のノイズ音の後に途絶えた。 「どうやら、お前の勝ちのようだな、ハナコ・プランバーゴ」  仰向けに倒れ力なく笑うネロの腹から、血がとめどもなくあふれ出していた。 「……あんたには、あたしがトドメを刺したかったんだけどね」 「これでまた……この世界は続く。お前の選択が正しかった……とは、おれは思わん」 「あんたもシローもヒサトも、アリスを、子どもを使わなきゃなんもできない奴らの正しさなんて、あたしは間に合ってる」 「フッ、かもしれんな……とにかく……おれの戦いは……ここまでのようだ……」  笑みを浮かべてネロは目を瞑り、そのまま果てた。 「終わったようだな」  声のした方を振り向くと、赤い鷹の地下牢に幽閉されていたはずのカオル・スズキと兵士たちの姿があった。 「なんであんたらがここにいる?」 「そこでノビている泥棒一家に出してもらった。お前の居場所まで連れて行く約束でな」 「なるほどね、〈446部隊〉と戦ってたのは、あんたらだったのか」 「そういうことだ」 「で、まだアリスを戦争に使うつもり?」 「……〈マッドハッター〉は使い物にならない状態だった。ヒサト・メンゲレが死んだ今となっては、修復も不可能だろう。それに――」  ――カオルがアリスに歩み寄って、片膝をついた。  とつぜんのことに驚いたアリスが、一歩だけ後退る。 「――考えを改めることにしたよ」  警戒するハナコに視線を移し、 「お前に言われたとおり、焦りで判断を誤ってしまったのが身に染みて分かったよ。それにこちら側にも多数の犠牲が出た。いま事を起こすのは得策ではない。皮肉だが、代表の言うとおりだったってわけだ」  と、カオルは自戒するように言った。 「この選択が正しいかどうかは、分からんがな」 「……正しいかどうかは、だれにも分からないだろ?」 「確かにな。せめて後悔をしないようにしよう」  ネロの言うとおり、この世界は続く。  後悔をしないための選択が、これからも続くのだろう。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加