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「やったか?」
ハナコのもとへ来たマクブライトが訊く。
「あんたは大丈夫なの?」
「ああ。右腕とあばらを何本かやっちまってるみたいだが、なんとかな」
『そんなバカなことがあってたまるか。ピクシーは最強だ』
ピクシーのスピーカーからシローが叫ぶ。
「終わりだよ、これで」
『ふざけるな……ウッ…ギギギギッギギ……ゲボゲボゲボゲボ!』
断末魔を上げながら反吐を吐くシローの通信が、数回のノイズ音の後に途絶えた。
「どうやら、お前の勝ちのようだな、ハナコ・プランバーゴ」
仰向けに倒れ力なく笑うネロの腹から、血がとめどもなくあふれ出していた。
「……あんたには、あたしがトドメを刺したかったんだけどね」
「これでまた……この世界は続く。お前の選択が正しかった……とは、おれは思わん」
「あんたもシローもヒサトも、アリスを、子どもを使わなきゃなんもできない奴らの正しさなんて、あたしは間に合ってる」
「フッ、かもしれんな……とにかく……おれの戦いは……ここまでのようだ……」
笑みを浮かべてネロは目を瞑り、そのまま果てた。
「終わったようだな」
声のした方を振り向くと、赤い鷹の地下牢に幽閉されていたはずのカオル・スズキと兵士たちの姿があった。
「なんであんたらがここにいる?」
「そこでノビている泥棒一家に出してもらった。お前の居場所まで連れて行く約束でな」
「なるほどね、〈446部隊〉と戦ってたのは、あんたらだったのか」
「そういうことだ」
「で、まだアリスを戦争に使うつもり?」
「……〈マッドハッター〉は使い物にならない状態だった。ヒサト・メンゲレが死んだ今となっては、修復も不可能だろう。それに――」
――カオルがアリスに歩み寄って、片膝をついた。
とつぜんのことに驚いたアリスが、一歩だけ後退る。
「――考えを改めることにしたよ」
警戒するハナコに視線を移し、
「お前に言われたとおり、焦りで判断を誤ってしまったのが身に染みて分かったよ。それにこちら側にも多数の犠牲が出た。いま事を起こすのは得策ではない。皮肉だが、代表の言うとおりだったってわけだ」
と、カオルは自戒するように言った。
「この選択が正しいかどうかは、分からんがな」
「……正しいかどうかは、だれにも分からないだろ?」
「確かにな。せめて後悔をしないようにしよう」
ネロの言うとおり、この世界は続く。
後悔をしないための選択が、これからも続くのだろう。
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