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「ピクシー? そう名乗ったのか?」
「ムゲンのおっさんがね、死ぬ前にそう言ってたんだ。口ぶりじゃ、どうやら知ってるヤツみたいだった」
「ふむ、ピクシー、か。いよいよ怪談じみてきたな。ただしそれが実在する者だとしたら、の話だが」
「まさか、あたしたちを疑う気?」
「いや、お前たちはおれに嘘はつかんさ、そう仕込んできたからな。だが、あいにくと監視カメラの故障で、ピクシーとかいうバケモノの存在を証明する物的証拠がどこにもない。つまり、目下のところ、お前らが最有力の容疑者だということだ。それに政府軍だけならまだしも、ムゲンを殺されたことで、民警も躍起になってお前らを追っているという情報もある。つまりだ、ほとぼりが冷めるまでのあいだ、お前たちにはここにいてもらうことになる」
「ちょっと待ってよ。じゃあ、あのコもここにずっといさせるわけ? 依頼は引き受けたんでしょ?」
「はじめから言っているが、あの娘は双子に護送させる」
立ち上がるハナコ。
「なんだ?」
ドンの眼を見据えて、ハナコは言った――
「その依頼、あたしたちにやらせてよ」
――トキオが驚き、口を金魚のようにパクパクとさせる。
「……あの娘に同情でもしたのか? お前らしくもない」
「そうじゃない。あたしの目的は、報酬の一億だよ」
その言葉に、鼻から先ほどよりも大きな息を漏らすドン。
「……なるほど。たしかに一億が入れば、その取り分の三割で、お前らの借金は完済できるな」
「完済できるどころかお釣りが来るだろ。それであたしはこの街を離れるつもり」
「正気か?」
「正気だよ。正気だから、ここにはもうウンザリしてるんだよ」
「ふむ……」
うなずき、考え込むように顎髭をさするドン。
「少し考えさせてくれ。明日、答えを出す」
その言葉に、トキオが諦めたようにため息を漏らした。
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