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「……この娘、ほんとになんなんだろうね?」
「ムラトの娘。それだけで、十分に狙う価値があるでしょう」
「政府軍にとってはそうだろうけど、やっぱりアイツがどうにも気になっちまってね」
「ピクシー、ですか?」
「そう」
やはり、あのバケモノのことがどうしても気がかりだ。
「うーん、でもおれたちはそういう諸々の事情なんてどうでもいい立場じゃないですか。『例えどんな代物であろうが、依頼されたブツは絶対に目的地まで運ぶ』ってのが《運び屋》の流儀でしょうに」
「……そうだな。それに、まだあたしらがやるとは決まってないしね」
「そうそう」
呑気なトキオにすこし気をそがれていると、ベッドから物音がし、見ると、少女が寝ぼけまなこで半身を起こしていた。
「……」
呆けたように口を開き、少女は部屋を見回した。
「ここは……どこですか?」
透きとおる声で言って、少女がハナコに視線を据える。
「あ……ああ、ここはあんたを悪いヤツらから守るための場所だ」
言いながら、一瞬、少女に心奪われたことをハナコは強く意識した。
「守る? 誰からですか?」
つづけて少女が言った。
「それは……」
困って二の句を継げずにいると、
「悪い奴らのことはおれらもよく知らないんだよ、お嬢ちゃん」
と、トキオが助け船を出してくれた。
「そうそう、あんたは――」
「アリス」
ハナコを遮り、少女が言った。
「え?」
思わず聞き返すと、
「アリス。アリス・サーティーン・ヒエダ。わたしの名前です」
と、少女は壊れそうな声音で名乗った。
その、アリスという名前に、なぜか胸が疼く。
「……できすぎた名前ね。あたしはハナコ・プランバーゴ。とにかく、あんたはいま安全な立場にはいない。だからここでしばらく大人しくしてもらう」
言って、窓外に目をやると、通りにチャコとケンジを連れ立ったドンの姿が見えた。
「アリス、今から事情を説明してくれる人が来てくれる。無理かもしれないが、あまり驚かないでくれよ。あたしはうるさいのが嫌いだからさ」
立ち上がって見ると、アリスは静かにうなずき、
「分かりました」
と言って、窓へ目をやった。
そのうなじには、《十三》という黒い刺青が彫り込まれていた。
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