11:ホワイトラビット

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 今は、そっとしておくのが得策なのかもしれない。  それに近いうち別れてしまうアリスと、必要以上に心の距離を近づける気もさらさら無かった。 「もう夕方の五時だな。今夜は七番で宿をとろう」  ハナコは、ショートパンツのうしろポケットに入れていた銀の懐中時計で時間を確認し、マクブライトに言った。 「お前が時間を気にかけるようになるとはな。待ち合わせする相手でもできたのか?」 「これはガンズの餞別(せんべつ)さ」  言って、ハナコは懐中時計の裏面を指でなぞった。 「あのジイさんはお得意だったからね」 「木箱とナットウも分けてもらったし、意外といい人だったみたいですね」  トキオが言う。  ドンの打診に快く乗ってくれたガンズは、木箱とナットウを用意してくれた。もっとも、ナットウは売りつけられたから、その費用は借金として加算されているが。 「あのジイさんには色々と迷惑をかけられたからな。せめてもの罪滅ぼしのつもりだろ」  老人の歯抜けの笑顔を頭から振り払うように、ハナコは鼻を鳴らした。  懐中時計を見ていると、むかし拾った『不思議の国のアリス』の絵本を思い出す。つまらない日常に飽きた夢見るアリスを、不思議の国へといざなったホワイトラビットは、たしか、おなじような懐中時計を持っていた。  ハナコは、つまらない日常どころか、この世界のすべてに絶望しているような顔のアリスに視線を移し、 「」  と、小さく独りごち、懐中時計の蓋を閉じた。
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