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「連れが二人いるの。それにコレをしゃぶる趣味はねえよ。どっちかと言えば噛みちぎる方が趣味かもね。試してみる?」
言って、ハナコは男を睨みつけた。
「おいおいおいおい、勘違いするなよ。おれはお前らに興味なんてねえ」
男が笑う。
「ケツとアタマの軽い淫売にそんなモン持ってウロつかれると、街の景観が損なわれるから、とっとと消えろって言ってんだよ!」
男が急に真顔になり、ドスの利いた声音でがなり立てた。
言いがかりも甚だしい。
よく見ると、さっきは気がつかなかったが、男は白い球状のモノが入れられた二十個ちかい小瓶を首からぶら下げていた。そのどれもがうすく濁る液体で満たされている。
「……悪いけど、あたしは淫売なんかじゃないし、あんたみたいな口先だけの男に指図されるのがいちばん嫌いなんだよ」
ケンカを売るのはマズイと思いながらも、口が止まらない。
男がふたたび口の端を吊り上げる。コロコロと表情の変わるヤツだ。
「口先だけかどうか、分からせてやるよ」
言って男がリードを引き、黒服の影から、リードの先を首輪につなげられ、アザだらけの上半身を露わにした、黒革パンツの、右目に白い眼帯をつけた青年が、悄然とした表情で現れた。虚ろな左目がじっとハナコを見つめてくる。
「お前もよく見ておけ。あの女のカワイイメンタマをプレゼントしてやる」
言って、男はリードを黒服に持たせた。
「泣き声が涸れるまで遊んでやる」
男は懐から鋭く光るアイスピックを取り出し、それをハナコに向けた。
その左手には、薬指がなかった。
「上等だ」
ハナコは、オロオロと右往左往する屋台のオヤジにフランクフルトをむりやり持たせ、
「涸れるまで聞かせてやるよ、あんたの泣き声をな」
と言って、警棒をホルダーから抜き取り、一気に振り伸ばした。
「ネエさん!」
男に対峙してかまえると、背後からトキオに呼び止められた。
「おいおいおいおい……」
男がトキオを見て、アイスピックを持った手をダラリと下げて目を丸くする。駆けつけてきたトキオは、ハナコをかばうようにしてその前に立ちはだかり、ベルトから引き抜いた拳銃を男に向けた。
「トキオじゃねえか!」
拳銃が目に入っていないのか、男が嬉しそうに目を輝かせる。
「まさか生きていたとはな。スキッピオの野郎、おれをだましてたってのか。まったく、つくづく他人は信用するもんじゃねえな」
「あの人は関係ない。だから手を出すんじゃない! そして、この人にもだ、アルビン・ゲイ!」
「……なるほど、お前の新しいオンナってわけか。エレナとか言ったか、あの女にずいぶんと似ているが、代わりのつもりか?」
男――アルビン・ゲイは深く深くため息をついて、射殺せるほどの憎しみをこめた視線をハナコに向けた。
「銃を下げさせろ、ゲイ。お前がなにもしなければ、おれたちは黙ってここから立ち去る」
言って、トキオはゲイの両脇の黒服を顎で指した。
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