15:カーニバル②

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「欲しいモノは自分で手に入れろ」  すげなく言うと、アリスは小さくうなずき、コルク弾を詰めて空気銃をかまえた。  一発、  二発、  三発、  四発……  しかし弾はことごとく外れ、アリスは最後のコルク弾を空気銃に詰め、祈るように目を閉じてゆっくりと深呼吸をしてから、口を真一文字に引き結び、真剣な眼差しでモデルガンに狙いをつけた。  そして五発目のコルク弾が発射され、  見事に外れて文字どおりの弾切れになった。 「残念だったね。だけどまあ、人生なんてそんなもんだ」  見ながらイライラしはじめていたハナコはそう励まし、あからさまにうなだれるアリスの手を引くと、さっきとは打って変わって大人しく従われた。  歩きながら、まだ小さい子どもの手がギュッと握りしめてくるのを感じる。 「……くそっ」  ハナコは踵を返して屋台に戻り、「もう一回だ」と店主に言って、空気銃を受け取った。 「銃は嫌いなんだけどな…… よく見てろよ」  横に立つアリスの視線を感じながら言って、ハナコは空気銃をかまえた。  一発、  二発、  三発、  四発……  だがまるでデジャビュのように、コルク弾はモデルガンを避けて通っていった。  大見得を切ったわりに不甲斐ないハナコを、店主が鼻で笑う。  それを睨みつけながら、 「いいか、『絶望の淵でも希望の唄を歌え』、だよ」  カリーナ・コルツのセリフを真似ると、それに驚いたのか、アリスが視線をハナコに向けた。  ひとつ大きな深呼吸をして、最後のコルク弾にありったけの大人のプライドを託して撃つと、モデルガンの右どなりの景品が倒れ、ニヤけたままの店主にそれを手渡された。  見ると、それは、無駄に写実的なピエロの顔が描かれた巾着袋のような、なんなのかよく分からない代物だった。額を掻きながらぶっきらぼうに手渡すと、アリスはそれを物珍しそうに見つめた。 「笑い袋だよ。真ん中をギュッと押してみな」  店主に言われてアリスが恐る恐る中央部を押すと、甲高い「ギャーハッハッハ!」という笑い声が通りに響き渡った。 「チッ、笑えねえよ」  店主に皮肉めいてアリスを見ると、なにを気に入ったのかそれを大事そうに胸に抱え込んで微笑みをハナコに向けていた。  さっき澄みきった青い瞳でじっと見つめられたときには後ろめたさを覚えたが、それに微笑みが加わると、信じられないくらい胸が苦しくなる。 「それでいいのか?」  緊張をごまかすために唾をひとつ飲み込んで訊くと、 「はい。『これを手に入れたのは、これを手に入れるべきだったからだ』、です」  カリーナ・コルツが《十三番》を手にしたときのセリフを吐いて、アリスは愉快そうにふたたび笑い袋を押した。  機械仕掛けの笑い声と、通りに響き渡る喧噪に入り混じり、遠くから打ち上げ花火の音が聞こえてくる。  アリスの笑顔を見ていると、人がなぜ花火を打ち上げるのかが分かったような気がした。
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