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ゲイが立ち上がり、砂や血にまみれたボロ雑巾のような格好にはおかまいなしで、スーツの下に装着したガンホルスターから骨董品のようなリボルバー式の拳銃を抜き取り、助手席のハナコに照準を定めていた。
右膝のあたりの生地は破れ、そこから、ズタズタになった肉や、外へと突き出した鋭利な骨が見える。
痛々しい――なのに、ゲイは笑っている。
「……まさか、あいつ不死身だなんていうんじゃないだろうね?」
「奴は、六番で《死なずのゲイ》という通り名を持っている男なんです。どんな大怪我を負っても、奴は止まらない」
「でも本当に死なないわけじゃないだろ?」
「奴は――」
トキオの声を遮り、フロントガラスを銃弾が襲う。
幸いにしてリボルバーに込められた銃弾には、防弾ガラスを突き破るほどの威力はないようだったが、ゲイはそれを意に介さず、再び撃鉄を下ろした。
そして車へと近づこうと歩き出したが、折れた右足のせいでまるで失敗作のロボットみたいな、おぼつかない歩き方になっている。一歩ふみだすごとに裂けた右膝から血が噴き出し、見ているだけで否が応でも戦慄を誘う。
「――奴は、先天性の無痛症なんです」
「痛みを感じないってわけ?」
「ええ、だから人に痛みを与えることを、無上の喜びにしてる」
ふたたび、フロントガラスに銃弾が当たる。
この男は、危険だ。
今さらながらにゲイの底知れぬ執念を感じ取り、背筋を冷たいものが這い上がる。
それほどまでにトキオへ執着する理由は分からないが、マトモという範疇を大きく超えすぎている。地獄の九番でさえ、ここまでの狂気をまとった者に出会ったことはなかった。
「おい、うしろからも来てるぞ! わざわざ相手をしてやることはねえが、どうする?」
振り返ると、最初に横転したうち、被害の少なかった二台のデザートバギーが迫ってきていた。
「逃げるぞ」
ハナコが言うと、マクブライトは無言でうなずいて車を発進させ、血まみれのまま笑うゲイをかすめるように通り過ぎて、荒野を走り出した。
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