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そこでは、首元を掻き切られた女子高生の死体があった。明らかに致死量の出血だったから、死んでいることは一目瞭然。
だが、驚いたのはそこではない。
その顔に見覚えがあったからだ。
「……杏奈?」
黒幕だと勝手に思い込んでいた杏奈が、そこで絶命している。異常が起こる辺りから姿を消していた杏奈は、どう考えても怪しかった。
それなのに、彼女は被害者側だった。異常が起こってからなのか、それともその前からなのか。
……では、誰が私たちをこんな目に?
ぐさり。
そんな音が、すぐ近くで聞こえたような気がした。否、そんなアニメみたいな音は鳴っていないけれど、そう聞こえてしまうような衝撃はあった。
そっと視線を下に向ける。
鍵を握った手の下、私の腹部からは、小さな刃物の切っ先が覗いていた。
「っ……が、はっ……」
荒々しくそれを引き抜かれれば、電気ショックのような鋭い激痛が走った。火傷しそうなほどに熱い腹部を咄嗟に押さえて、床に転がる。トイレの床だろうと、今は関係ない。汚れた床の上には、ドクドクと溢れた血液が零れたジュースのように広がっていく。
「な、んで……」
掠れた声でそこに居た人物を見上げる。
足元に置かれた開いたリュック。黒いローブを纏い、手には長いナイフ。これまでに見た事のないくらい表情の消えた冷酷な顔でこちらを見下ろしている。
――麻弥が、そこには居た。
「おめでとう、沙月ちゃんが一番ノリだね」
血濡れたナイフを放って、彼女はにんまりと笑って拍手をした。
「ど、して……?」
「どうして?よく言うよ。いつもいつも正義の味方のフリして、私にどれだけ恥をかかせてきたか。お前が私を助ける度に、私はどんどん惨めになっていく。お前もどうせ、弱い者を助けられる自分はいい子だって酔いしれていたんだろ?」
「そ……な、つもり、じゃ……」
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