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美咲が死んだ。
彼女は、誰からも慕われている委員長だった。
それをキッカケとして、私たちのクラスは崩壊した。否、とうの昔に崩壊はしていたけれど、誰もが正常を演じていただけだった。その仮面が、たった今剥がれただけにすぎない。だけど、たとえ偽りの信頼だったとしても、委員長は確かに皆の支柱となっていたに違いない。
まとめ役を失った私たちは、みんな冷静さを欠いて、本能のままに生きる獣の如く、散り散りに教室を飛び出して校内を駆け巡る。そうしなければ、この体に宿った命が、水風船のように爆ぜた彼女のように消えてしまうのだから。
あぁ、どうして。
どうしてこうなってしまったの。
『彼女』だけは守らねばと、私はなんとか彼女を見つけ、手を引いて走っていた。生きるためには、訳の分からない黒いローブのヤツが言っていた『鍵』を見つけなければならないらしい。
誰よりも早くそれを見つけた者だけが、ここから出られる。死にたくなければ、この鍵探し競争に勝利すればいいだけ。
これは、フィクションなんかではない、正真正銘のデスゲームだった。
数十分前までの日常が、もう遥か昔のことのように感じる。
それでも鮮明に穏やかな光景を思い出せるのは、死が間近に迫っているからなのか。
私はただ、絶望の淵に立たされたまま、数分前までの日常を懐古した。
*
何が待ち受けているのか、その時は誰にも分かっていなかっただろう。
放課後に明確な用事も告げられずに「教室で待機しろ」との先生からのお達しだった。確か、委員長の美咲がそう聞いたとみんなに伝えたはずだ。
『いい子ちゃん』を演じる私たちは、その言葉に素直に従っていた。時折、「はやく帰りたい」だの「どうせくだらない用事だろ」などと言った、退屈そうな男子たちの声が聞こえていた。
この時はまだ、誰もが呑気であったのだ。
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