鍵探し

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 その退屈な彼らも、数十分後には愚痴の一つも吐けなくなってしまうのだ。 それは、この時から始まった。 一瞬だけ全員の視界が暗転した。ぱちり、と電気のスイッチが切られたみたいに。刹那の目隠しをされたかと思うと、校舎内は不気味なほど真っ赤な夕焼けに満ちていて、異様な空気に誰もが身を震わせた。  何が起きたのかと騒ぐクラスメイトを一番後ろの席で見つめ、私は冷静に周囲を見回していた。教室の窓には、触れば皮膚など簡単に切れてしまいそうな有刺鉄線が張り巡らされていて、規則正しく並んだ机や椅子はかなり腐敗している。黒板は斜めにずり落ち、開けっ放しの扉がピシャリと音を立てて勝手に閉まる。  明らかに異常事態であることは、『劣等生』が集まるこのクラスの人間でも理解できただろう。ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり、口々に異常に関して戯言を垂れている。慌ててはいるようだが、さすが劣等生、危機感はまるでない。異質な空気を感じても怖気づいた様子はどこにも見られなかった。  私だってそうだ。  この学校は歴史が長く、やたらとオカルトじみた噂は蔓延していた。変な儀式だの妖怪だの、ファンタジーなものがたくさん。その中の一つであると捉えれば、それほど怖くはない。どうせすぐに元に戻る。 「み、みんな落ち着いて……!」  委員長の高い声が響く。多少静かになったものの、ただでさえ用事もないのに教室に待機させられて苛立っていたクラスメイトたちは、委員長への不満をコソコソと吐き出す。 「……いつまでリーダー気取りなんだよ」 「面倒だから役割押し付けただけなのに、信頼されて票集まったとか思ってんのかね」  委員長には聞こえていないであろうその悪口を、私の耳は捉える。誰からも信頼される彼女に向けられる感情は、泥のように汚れている。思わず舌打ちをすれば鋭い視線が飛んできたが、別に痛くも痒くもなかった。
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