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そんな最中、不意に教室の扉がスパンッと開かれた。先程勝手に閉まった扉の外には、真っ黒なローブのようなものを羽織った何かが立っていた。背丈は私たちとそう変わらないだろう。すっぽりとローブに包まれたソレは、傍から見れば黒い布がふよふよと浮いているように見える。しかしながら、ローブの下からは薄汚れた上履きがチラついていた。
突然の出来事に、さすがのクラスメイトたちも静かになり、目を奪われたかのようにソイツを見つめた。
「なにあれ、コスプレ?」
「そりゃねぇっしょ。ダサすぎだっての」
行儀悪く机に腰掛けた伊藤と、この状況でも退屈そうに携帯を弄っていた咲坂が黒いヤツを見て笑う。黒い何かは、一瞬だけ二人の方を見たような気がした。顔が見えないからどこを見ているか定かではないが、そんな気がした。
何も感じない。
否、その視線には何も込められていなかった。それでも、体の芯から凍り付いてしまうようなおぞましい気配がする。それは、遠巻きに見ていた私にも理解できた。
「あ、あの、どちら様でしょうか……?」
委員長が皆の前に立ち、その黒いソイツに問いかける。
なんとなく嫌な予感がした。
確かに異常事態ではあるけれど、隣のクラスの悪戯好きの不良どもが企画したドッキリか何かでないかと信じたかった。単なる奇妙な噂に少し巻き込まれただけだと思いたかった。
だけど、本能が警鐘を鳴らしている。
なんなんだ、この胸騒ぎは……。
「オ前タチハ、囚ワレタ鼠」
ボイスチェンジャーでも使っているのか、キンキンと五月蠅い高い声がそう告げた。不気味な音声に、教室のあちこちで聞こえた内緒話も消えうせた。
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