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「はぁああ?」
「や、やめなよ伊藤さん……!」
その時、初めて黒い何かが蠢いた。大きな黒布の下に生えているであろう腕らしきものを動かして、布越しに手を伸ばしている。
沸点の低い伊藤が黒いヤツに近寄ろうとしたところを、委員長が手を引いて止める。
「うっせぇなあ!アタシは腹立ってんだよ!」
「きゃっ……!」
委員長の手は乾いた音と共に叩かれる。怒りの矛先が委員長に向いたところで、黒い何かが委員長のすぐ目の前に立った。
まずい。
どっと冷や汗が吹き出た。
でも、私は動くことができなかった。
「ソレデハ、哀レナ鼠タチノ、『鍵探シデスゲーム』ヲ始メルトシヨウ。鍵ヲ探ス為ナラバ何ヲシテモ構ワナイ。此処デハ、法ナドタダノ口約束ニスギナイ。……デハ、開始ノ合図ダ」
――パァンッ!
「…………は?」
この場にいる誰もが瞠目しただろう。一瞬の静寂、時が止まったみたいに全員の動きがピタリと止まる。
特に、委員長のすぐ傍に居た伊藤は、顔面蒼白で目をかっ開いて硬直している。そりゃそうだ。当然だろう。
委員長が、一瞬にしてただの肉塊へと化したのだから。
「うわあああああああっ!?」
「い、いやあああああ!!」
けたたましい絶叫が、遅れて教室中に轟いた。黒板や腐食した机や椅子を染め上げる鮮やかな赤色と、喉が張り裂けんばかりに叫ぶクラスメイトたちの声が混ざり合って吐き気がした。かろうじて残った委員長の脚が、ゴトリと血だまりの上に落ちた。
状況把握なんて、できるわけがなかった。
一刻も早く、ここから逃げ出さなければならなかった。そうでなければ、委員長みたいに殺される。
クラスメイトたちは、「殺される!逃げろ!」、「オレが鍵を見つけて外に逃げるんだ!」、「私が」、「俺が!」と口々に叫んで教室を飛び出した。もみくちゃになりながら、小さな出口をかいくぐって。
委員長というまとめ役を失った私たちを落ち着かせてくれる人など、もうどこにもいなかった。
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