鍵探し

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「そういや、杏奈はいないの?」 「わかんない……放送を聞く直前に、どこか行っちゃって……」  それを聞いて、背筋が凍った。こういう時だけ、変な方向に頭が回転するからだ。  明らかに、タイミングが良すぎるだろう。いつでも二人で行動しているのに、突然いなくなるだなんて。杏奈が、あの黒いヤツなのではという推測をして、私は震えあがった。杏奈であれば、あの黒いヤツと背丈が同じくらいだ。杏奈と同じくらいの体格の女子など他にもいるから断定はできないが、その証言だけでだいぶ可能性は高い。 「……麻弥。麻弥には酷かもしれないけど、杏奈は――」  今は隠し事をしている場合ではない。最悪の場合を加味して告げようとすれば、突然麻弥の背後に何かが出現した。  黒くて、もやもやしたもの。  霧のようなそれは、次第に見た事のない化け物のように変化していく。赤い目玉が幾つもついた、ドロドロとした化け物だ。  ヒュッと喉が鳴った。  肺が痛い。胃の奥に氷を詰め込まれたみたい。  狂った絶叫が溢れだしそうなのを何とか飲み込んで、私は慌てて麻弥の手を取った。 「っ、麻弥!逃げるよ!」  麻弥の手を思い切り引っ張って駆け出した。  嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ……!  あんな化け物がいるなんて!これは本当に現実!?  ドタバタと足音を立てながら走る中、涙がボロボロと零れた。麻弥の前では気高く強くありたいのに、恐怖で押しつぶされた心が悲鳴を上げている。せめて彼女には情けない泣き顔を見せないように、ただ前だけを見て走った。  気味の悪いぬちゃぬちゃとした足音は、負けじと私たちを追いかけてきている。  一瞬でも足を止めれば、あの化け物に殺されるんだ。  脳裏には、ポップコーンのように爆ぜた委員長の姿が描き出された。
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