Je te veux

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(ご、ごめんなさい!) 私は以前からこんな感じだ。頭の中では何だって話せるのに、 どんな表現だって出来る自信があるのに。 今のようにちゃんと謝らなきゃいけない場面でも、 いざ現実になるとうまく話せなくなってしまう。 「もう、何かいってくれよ、少しくらい話したらどうなんだ」 緊張で汗がとまらない。顔があつい。どうしよう。 すごい呆れた顔してる。本当にごめんなさい! 「じゃあ…この件はまた今度な、わかったな副会長」 こくこく 「まったく、じゃ気をつけて帰れよ」 今、私の目の前にいるのは私たちの学校の生徒会長。 そして私がこっそり想いを寄せている人。 なんとか終わった。そう、私は生徒会副会長。 こんなでも一応…! もう、それにしたって会長ったら言いたいこと言ってくれちゃって、 私だって何とかしたいわよ! でも話せないものは話せないのよ。だって… もうすぐ日が暮れる。帰宅部の生徒は既に下校している。 残っているのは、部活動をしている生徒と、 私みたいな生徒会のメンバーくらいだ。 校庭で汗を流していたサッカー部の人たちの姿はもうない。 私も早く帰らなきゃ。 ああ、どうして話せないんだろうか。 友達となら普通に話せるのだけど。会長と対面すると…。 ああ、もうやめやめ!今日はこれでおしまい! 生徒会室を出て、階段につく。 生徒会室は4Fにあって結構上り下りが面倒だ。 そんなことを思いながら階段を降りていると、 どこかで聞いたことのあるような不思議なメロディがながれてきた。 音楽室の方かな。でも誰だろう…?先生かな。ちょっと行ってみようかな。 思わず来てしまった…!相変わらずドアの向こう側からはピアノの音。 ここからじゃ角度であまり見えないけど、学ランが見える。 男子生徒かな…?思いきってドアを開けると、そこにいたのは (か、会長?!) 「ん、なんだ副会長か?どうした、もう帰ったんじゃなかったのか」 (そ、それは会長も同じじゃない!) 「もしかしてピアノ。聞こえたか?」 「うん…」 「ああ、そうか。俺、先生に許可もらって、放課後ここ使わせてもらってるんだ。少しの時間だけだけどな」 (なんで、家で弾けばいいじゃない…どうして学校で?」 「途中から声に出てるぞ」 あああああ!やってしまった、私のバカ!あんぽんたん! 「ま、普通そう思うよな。実は俺、ピアノもってないんだ」 (え…?持ってない?そんな、あんなに弾けるのに…?) 「大した理由じゃない。元々うちにピアノなくてな。近くの教室でピアノ弾いてたんだけど、高校に進学してから忙しくなってやめてさ」 「な、なるほど」 「「…………」」 き、きまずい。そういえば用事があるときぐらいしか私たちは話さない。 というか、私はうんとかすんとかしか言えてないけど。 「もうこんな時間か。今日はもう遅いし、帰るか」 「そう、だね。」 私はその日から、生徒会の雑務を終える度に、音楽室に足を運んだ。 理由は一つ、ただ会いたいから。 「あの…」 「ん?どうした、副会長」 「い、いつも…何弾いてるの…?」 「ああ、エリック・サティの曲だよ、知らないか?」 「名前は…聞いたことある、かも?」 「弾いて見せようか」 会長がまたピアノに向き合って演奏を始めた。 ああ、会長の真剣な顔、やっぱりいいな。 特に目がいいな。こう、しゃき!てしてて。 みんなは怖いっていうけど、全然そんなことない。 (会長は…かっこいい」 「かっこいい?はは、おかしいな、初めてきいたよ。この曲聞いてそんな感想言うの」 あわわわわわ!またやってしまったっー! 私って本当にドジ!もう、世界よ滅びろ!爆発しろ! 「い、いや、そのえと…」 「なあ、お前、なんか変わったよな」 「え…?」 「以前は全く話さなかったのに。最近はちょっと喋るようになった。ほんのちょっとだが。みんなが言うには、普段は普通らしいから、俺嫌われてるのかと思ったぜ…はは」 「そんなことない!」 思わず叫んでしまった。やってしまった。 「お前…」 でも否定しなきゃいけなかったんだ。今の発言は。 私は…私は会長のこと、 ずっと。 私は。 「会長!私はあなたのことがーーー」 特に何があったわけじゃないけど、私は確かに会長と喋れるようになった。 距離も以前とは近くなった気がする。 でも、今思えば、あのピアノの曲が、 私の背中を押してくれたのかもしれない。 ありがとう、名も知らぬ不思議な曲。 今日、また放課後になったら、音楽室に行って、 曲の名前を聞いてみようと思う。 Je te veux あなたが欲しい
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