introduction

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 その店は「仲町通り」と呼ばれる繁華街の、ほぼ中ほどにあった。辺りを取巻く喧騒。怪し気な広告。派手な色使いのネオンサイン。軽薄な鮮やかさを嘲笑(あざわら)うかのように、足元では枯葉がカラカラと大袈裟な音をたてながら風に転がっていた。 「ごった煮みたいな街だな……」  そんな形容が、口を()いて出る。まぁ人生なんて所詮、矛盾だらけで猥雑なものさ。だとすれば胡散(うさん)臭いこんな通りのほうが、歩くにはシックリくる。やさぐれたオレに、それはお似合いの風景であった。  やがて風俗店めいた吹き溜まりのような建物が見えてきた。道路際の小さな看板に〔jazz〕の文字が無ければ、そこに店があるなんて誰も気づきはしないであろう。建物の隅には小さな階段がある。それを上がったところに、その店はあった。まだ宵の口とはいえ扉の向こう側は薄暗く、妙に静かである。 「やってますかぁ……」  恐る恐る扉を開けた。狭いながらも居心地の良い店内を見渡す。無音。当然、客は誰も居なかった。 「あ、いらっしゃい」  カウンターの中に座り込んでいたマスターが、手元の新聞から目を上げた。よほど暇だったのだろう。 「読むかい? あまり楽しい記事ないけど」  持っていた新聞を折り畳み、曖昧な笑みを浮かべながらそれをカウンター上に置いた。
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