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それから2人は毎日のように事を行った。 インターネットの通販サイトで購入した小さなローターを新規参入させ、夜9時は美由紀のオナニーを誠一に披露するのが日課になっていた。 しかし誠一の反応は変わらない。毎度彼のボクサーパンツにテントは見受けられず、その都度彼女は冷たい張形で絶頂を迎える、その繰り返しだ。 しかし、揺らがない水面のような毎日に小石を投げかけたのは誠一だった。 いつものように風呂から上がり、数分後に始める自慰行為のためにバスタオルで体中の水分を拭き取っていく。今回選んだ下着は赤色がベースで黒のレースが施されていた。少し派手かもしれないが、まずは視覚から自分に対してのエロスを感じてもらわないといけない。刺激的な方が良いのだ。 大きめのバスタオルで全身を覆い、細い廊下を抜けてリビングに向かう。いつもそこにいるはずの誠一はいなかった。 先に寝てしまったのだろうか。そういうこともある、むしろ毎日付き合わせてしまって少々申し訳なさを感じていたところだった。 「美由紀、こっちに来てくれ。」 扉が開いたままの寝室から誠一の声がした。4年も経過して、誠一から初めてのアプローチだった。自然と口端が緩むのが分かる。 カーキ色のスリッパを履き、ぺたぺたと音を鳴らして寝室に向かう。ダブルベットの上で彼はあぐらをかいていた。どこか俯きがちな表情で、寝室の闇を眺めている。 「感覚を取り戻したいんだ。頭の中で浮かべることは簡単だけど、セックスをする感覚を体で思いだしたいんだ。だからさ、ディルドを貸してくれないか。」 どういうことだろうか。とりあえず美由紀は頷き、ベッドの脇にある小さな棚の上段を開ける。ここ数日間使用しているディルドは常に反り立っていた。 「はい。でもどうするの?」 ディルドを彼に手渡すと、膝立ちになった誠一は下腹部に張形の吸盤を着けた。真っ黒なボクサーパンツの上にディルドが伸びる。 「美由紀、まずは正常位から始めてみないか。」 擬似性行為、ということだろうか。三十路が近いということもあるかもしれないが、こういった些細な提案すらも彼女の涙腺を緩ませている。顎の先を胸元へ深く沈め、美由紀はベッドに入り込んだ。パンティーを脱ごうとゴムの部分に両手をかけた時、誠一はそれを止めた。 「俺から触らせてくれないか。久しぶりに美由紀の中を堪能したい。」 美由紀は落ち着いたような表情で頷いた。これも優里に感謝しないといけなかった。彼女がいなかったらここまでの進展は有り得なかったのだ。さらに誠一自身もこの現状を打破したいという気持ちも知ることができた。お互いが何も言えずにいた4年という長い歳月が徐々に色付いていく。それが本当に嬉しく思えた。 久しく誠一に身を委ね、美由紀は闇の真ん中で仰向けになった。彼の手がふくらはぎに触れ、それだけで美由紀は涙を零してしまいそうになる。自然と股が開き、彼は太ももに両手を添えた。 「もう濡れているね。」 どうやらクロッチにシミがついているのだろう。ただそれで良いのだ。性的欲求に素直な一面を見てもらいたい、それが夫婦というものではないのだろうか。決して他の人に見せない、自分だけの一面を曝け出せる。家族とは共有の権化だ。 やはり濡れている。それを実感したのは彼の指が膣に触れた時だった。湿ったティッシュを押し付けられている感覚からすぐに全身を駆け抜ける快感に変わる。布越しに彼の指の腹が当たり、おそらく彼に小陰唇の感覚が伝わっていることだろう。そう考えただけで美由紀は切ない声を漏らしてしまった。 そして彼の癖を久しぶりに味わった。濡れた箇所を苛め抜くのが好きなのだ。湿ったクロッチに指を押し込み、強引に膣口を刺激する。懐かしい快感が嬉しく思えて仕方がない。美由紀は悦びというものの本質を再確認していた。 「あっ、気持ちいい…あなた、もっと…。」 徐々に腰が浮いていく。両手で白く深みのある枕の端を掴み、宙に浮くような姿勢になってしまう。やがて誠一はクロッチをずらし、膣を露わにした。ひどく濡れている感覚が見ずとも分かった。 彼の中指と薬指を膣内がゆっくりと満たす。そうか、彼の指はこんなにも心地いいのか。4年ぶりに味わう彼からの愛撫は、起きかけの毛布で全身を包むほどの温もりがあった。このまま眠るように落ちていってしまいそうだ。 「あなた、もうダメ。いっちゃいそう。挿れてほしい。」 うんうんと頷いて誠一は指を引き抜いた。彼は愛撫の最中、言葉を発することはない。美由紀の喘ぎ声に頷いては、彼女からの言葉に反応していくのみなのだ。自分をじっくり見てくれている感覚がして、美由紀は彼からの愛撫が何よりも好きだった。 浮いた尻をベッドに着地させ、誠一は体勢を整えた。膝を曲げて、下腹部に着いたディルドを調整する。やがてほんのり冷たい先端が膣口に触れ、一瞬でそれを呑み込んだ。 もちろん膣内で感じるモノはここ数日と同じである。しかし最も違っているのは目の前の光景だ。裸になった誠一が自分を覆って見下ろしている、それが何よりも嬉しかった。 「じゃあ美由紀、動かすよ?」 これも彼の癖だった。膣内が侵入してきたモノに慣れるまで待ってくれる。誠一とのセックスには優しさがあった。 仰向けのまま頷き、自然と眉尻を下げた表情で美由紀は彼を見上げた。彼のモノではない張形、それを身に付けて見下ろす誠一、もちろん捨てきれない違和感があるものの、4年ぶりに見る光景がそこにある。ゆっくりと腰を動かしていく誠一は今どんな感情なのだろうか。 足の付け根に彼の腰がボクサーパンツ越しに当たる。風呂上がりの温もりや誠一の薄い筋肉の盛り上がりが懐かしく、夜を感じていた。どこかでセックスというものは自転車に似ているという文章を読んだことがあった。一度経験してしまえば数年越しに乗っても案外やり方を覚えている。緩急をつけていく腰の動きが全身を揺さぶり、誠一は口を開けたまま腰を振っていた。 「あっ、あなた、激しい…。」 膨らんだ乳房をブラジャーの上から鷲掴みにし、誠一は久しぶりに美由紀を蹂躙していった。4年間寝るだけだった空間が淡く桃色に変化していく。 乳房を覆っていた両手を美由紀の腰をつかむ。尻とくびれにかけて付いている柔らかな肉付きを揉むように引き寄せ、ディルドの先端を美由紀の奥にねじ込んだ。シリコン素材で本物のように作られた擬似の血管が膣内を無理やり搔き回し、模られていくようだった。 「ダメっ、それ以上は、いっちゃうから…。」 美由紀は自分の絶頂が近いことを予告した。臀部から徐々に痺れのような違和感が全身を伝い、大切なものを失ってしまうような危うい感覚、溺れてしまいそうな快楽がそこにはあるのだ。細めていた目を開けた時、そこに見たのは誠一の妙な表情だった。しかし止まらない彼の腰付きに、美由紀は限界を超えた。 「あっ、いくっ。」 自然と開いていた足が閉じ、まるで膣内に発生したエクスタシーを監禁してしまうような体勢で、美由紀は体をびくんと痙攣させた。全身の毛が反り立つような、それでいて爽快感のあるエクスタシーは久しぶりだった。 「あなた、気持ちよかった…。」 体全体を使っての絶頂が久しく、美由紀の目はとろんとしていた。抗えない眠りが彼女の瞼を強制的に閉ざす。まだ膣内にディルドが残ったまま、彼女は深い眠りについた。
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