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7
優里の作戦を聞き、キッチンに立ち尽くす美由紀は言葉を失っていた。洗わなければいけないマグカップの底で、残ったコーヒーが揺れることなく照明を茶色の水面に映し出している。
ようやく言葉を振り絞り、美由紀は言った。
「でも、それって誠一さんを裏切ることにならないかな…。」
しかし優里は美由紀の肩を抱き、語気を強めた。
「大丈夫。私に任せてよ。私が髪をストレートにして黒染めして、メイクをお姉ちゃんに似せたら私たちは瓜二つ。その状態で私がセフレをホテルに呼んでセックスして、携帯で隠し撮りをしてそれを誠一さんに送る。その動画を見たら誠一さんはお姉ちゃんを寝取られたと思うでしょう?もしかしたらその映像を見て、誠一さんは元気を取り戻すかもしれない。奥さんを取られたくないっていう本能が働くかもしれない。言ったでしょう、最悪な結末を招くかもしれないけど、もしかしたら元に戻れるかもって。これで誠一さんが元気を取り戻さなかったら私が一緒に謝るし、元気を取り戻したら結果オーライじゃん。」
危ない賭けだった。しかしこれ以上の方法は無いのだろう。諦めて安定をとるか、諦めず不安定な道を進むか。今まで美由紀は前者を選んできた人生だった。
不安定な道はリスクがつきまとう。なるべくメリットもデメリットも少ない方を選ぶ方が得策だと感じていた。もちろんメリットが大きいことだってあるかもしれないが、その分デメリットを味わった時の悲しみが大きい。美由紀はそれを味わいたくないのだ。
「お姉ちゃん、ちょっとだけでいいから勇気出してみない?」
優里の一言がトドメになった。どうやら自分は優里からの一言を待っていたのだろう。誰かからの強い後押し、美由紀を突き動かす決定打を自分は待っていたのだ。
木目調のキッチンを撫で、美由紀はリビングを眺めた。彼と一緒に居ることを決めて7年。今まで色々なことがあった。もちろん喧嘩もしたし、一度は一緒に居ることを諦めそうにもなった。
しかしその都度2人が乗り越えてきたのは、真正面から話し合ってきたからだ。
夫婦だけでなく恋人にとって重要になってくるのは会話である。長年連れ添ったところで相手の心の中は読めない。だからこそ言葉にしないと相手に伝わらないのだ。
空気を読み合うのではなく、会話の量を増やす。いつだって2人はそうしてきたのだ。
鼻からふっと息を漏らして、美由紀は決意した。
「分かった。じゃあ優里、お願いしてもいい?」
アイランドキッチンの中で瓜二つの姉妹は目を合わせて頷き合い、セックスレスの旦那を騙す作戦を行う決意をした。
窓から薄い光が差す。新規企画を練るまで自宅作業を言い渡されている誠一は、裸のままベッドに寝ていた。死んだように眠る誠一は、あれから繋がったまま5度の射精をした。
初めてセックスをしたような情熱に駆られた誠一はがむしゃらに体位を変え、美由紀の体内を堪能したのだった。
裸のままベッドから下り、美由紀はトイレに向かう。数時間にも及んだセックスの後に見る、朝焼けに包まれた家は様々な色が加えられているようだった。昨日よりも鮮明に、それでいて窓から差すオレンジが心地いい。
便座を開けて座り込むと、膣口からどろっと精液が水面に落ちた。勿体無いと感じて美由紀は精液を指で中に押し戻した。じゅぷっと音を立てて膣口に二本指が滑り込み、小さく切ない声が漏れる。指先に付着した白濁液を見て、美由紀は口端を吊り上げた。自分の愛する旦那が膣内に射精してくれる、これが何よりも嬉しく感じていた。
白い粘液で柔らかな陰核に触れる。徐々に硬くなっていき、自分でも頬が紅くなっていくのが分かった。
久しいセックスが物足りないわけではない。ただ、確かめたかったのだ。
中指の腹で剥けたクリトリスを優しく撫で、太ももに緩やかな波ができた。なるべく精液が溢れないように気を付けて、重力に負ける液体を塗りたくった。
左手で乳房を揉んだ。手のひらの隆起で乳頭をこねるように刺激し、切ない声数が増えていく。中指の動きがどんどんと早くなり、潤滑剤の役割を果たす精液は陰毛の先端を濡らし、いくつか束を作っていた。
「はっ、あ…いく…。」
全裸のまま、便座の上で美由紀は小さく痙攣した。もう何度目の絶頂なのだろうか。ベッドの上で獣のように自分を貪る誠一のペニスは衰えることなく、何度も美由紀を絶頂に誘った。
だからこそ、この絶頂が今までで最も小さく、気持ち良くないものだった。今の自分にとって誠一のペニスが一番気持ちがいいのだ。その事実が何よりも嬉しかった。
誠一が起きたら全てを話そう。あの映像は髪とメイクで自分に似せた優里で、今まで彼へのアプローチは優里と一緒に考えた。ただ誠一なら許してくれるだろう。そう確信できたのは、ベッドで見た彼の笑顔だ。
彼のくしゃっとした笑顔が眩しく、思い出すだけで美由紀は口元を緩ませてしまう。それと同時に溢れていく涙を拭うことなく、美由紀は嗚咽した。
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