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森の奥の館の中で
弔いの魔女と呼ばれている魔女がいました。
美しい獣人を従えた魔女は森の奥深くの館に住んでおり、依頼人の悩みを弔います。つらい思いから解放された依頼人は魔女に感謝しながら館を後にします。
「見送りはあなたが?」
「はい、魔女様はお疲れですので」
獣人は微笑み、館の扉は閉じられます。
応接間のソファでうなだれる魔女に獣人は話しかけます。
「お疲れ様でした。またつらい仕事をさせてしまいましたね」
首輪を外してあげましょう。
獣人はそう言って魔女の首から宝石のついたチョーカーを取り外しました。
「ああ、可愛い僕の使い魔。今、甘いものを用意しますからね」
魔女の髪を撫でた獣人はキッチンへと消えてゆきました。
魔女と呼ばれている女は、森に捨てられた子供でした。
人の黒い感情を引き寄せ、溜め込み、しかし浄化はできなかったので、村では諍いの場で泣いているだけの子供でした。誰かが彼女が諍いの源だと言い、彼女の両親も守りきれず、捨てられることになった。そういう子供でした。
彼女を拾った獣人は、彼女の体の隅々にまで溜まった黒い感情を大変おいしく食べてしまいました。極上の邪悪な感情を気に入った獣人は、彼女に魔法の力を与えて自らの配下としました。そうしておよそ百年が経っていました。
彼女は魔女として名を馳せました。
いつも共にいる獣人はその使い魔なのだと人々は思っていました。
「ほら、口を開けて?」
魔女が頼りなく口を開くと、獣人は噛みつくようなキスをしました。
「これはまたひどい感情だ」
美味美味、と言いながら獣人は魔女の体に溜まった黒い感情を食べてしまいました。
「さあ、もう一度口を開けて。この焼き菓子、好きでしょう?」
ゆるく開いた魔女の口に獣人は菓子を差し入れます。甘い甘い焼き菓子です。魔女の口の中でほろりとほどけました。
「ああ泣かないで。いくらでも僕が甘やかしてあげるから、ね?」
優しく魔女の髪を撫でながら獣人は言います。魔女はくたりと獣人に寄りかかりました。
「いいこいいこ、僕の大事な使い魔」
逃げ出すことだけは許さないよ、と獣人は美しい顔で微笑みました。
獣人は魔女に魔力と永い命は与えましたが、黒い感情を浄化する力を与えることはありませんでした。
おしまい
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