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第三章 モンスター
学生は冬休みに入ったが、ジョーカーは通常営業。この日の窓口業務は第四部隊。隊長の小夜は 40代で若くはないが、その分知識、経験、情報がある。体力に関しては部下に任せておけばいい。
彼女はいつもの制服で朝からデスクの仕事に追われたが、そこから窓口組の部下が見えた。豊満な小夜と対照的に、若い隊員、臼井美晴は細身長身ですらりとしている。山倉小学校の校長、坂本がやって来たので対応していた。
「幸助君に会わせてくれ」
「どうしたんですか」
「いじめ被害を詳しく聞きたいんだ」
「加害者から聞いてください」
坂本は弱り果てている様子だった。彼が苦労して返答をひりだす。
「彼らは無実だって言い張るんだ」
「じゃあ、被害者も無条件で信じてください」
「だってまず話し合わないと」
「加害者や大人と話し合いましょう」
坂本は力なくその場を後にする。玄関から出ようとした時、急いで入ってきた女性客とぶつかり、しりもちをついていた。
プルシャンブルーのスカートの女性は彼に頭を下げてその場を去ったが、坂本はその後、何かに気か付いて、あわてて本部のトイレに逆戻りしていた。多分、ルージュかマスカラがシャツに付いてしまったのだろう。
次に美晴のところに50代の男性がやってきた。小夜の知っている警察幹部、大杉だ。さすがに見事な体形をしている。
警察はジョーカーに圧力をかけられない。何か希望があるなら一般人と同様、窓口で話し合うしかない。
美晴の控える窓口には、今日生けたばかりの花も見える。青紫の冬の花にカスミソウがゴージャス。大杉のシックなスーツとよく合っている。彼は言った。
「幸助君に会わせてくれ」
「どうしたんですか、」
「いじめ被害を詳しく聞きたい」
「加害者に聞いてください」
「まだ容疑者だ。警察が調査に利用できるのは被害者だけなんだよ」
「解決を被害者に依存しないでください」
「そんなこと言っても、どうしたらいいんだ」
「大人が話し合って解決してください」
彼は悔しそうな顔をして席を立った。帰っていく姿も坂本と違って立派だったが、ジョーカーを思い通りにするのは難しいだろう。
やはりシャキッとしない天気の水曜午前、小夜は本部窓口対応側の詰め所に出向いた。今日の担当は塔吉郎配下の第三部隊だが、小夜は別の案件に対応してやって来ていた。
窓口付近のサーモンピンクのパンフレットを取りに行くと、第三部隊の花形、御門凪が坂本の相手をしていた。
小夜は関与しないふりをしたが、立ち止まって現場に見入ってしまう。凪の前で本音を隠せる人間はあまりいない。坂本は必死の形相で訴えた。
「被害者親がモンスター化してたまらないんだ。子供を解放してくれ」
「モンスターがたまらないなら、授業も妨害されるし校内侵入禁止にすればいいでしょう」
坂本が食い下がる。
「猛烈に頭の回転が速いんだ。論破されてしまう」
「親のモンスター化を、どうして子供が解決しないといけないんですか」
「ええい、うるさい。もう努力したくないんだ。子供はあんなに愛されてるじゃないか。安全だって言ってるんだよ」
凪のけろりとした対応を前に、坂本は結果に急ぎ始めた。
小夜の目の前で凪の黒瞳が、坂本の世界を犯すように光った。
「あなた方を苦しめるような親が、子供に安全だったと思ってるの?」
「それを考えたら、学校はもうモンスターから逃げられない。だから幸助君が愛されてる物語で自分をだますんだ」
「騙したいだけ騙したらいいよ。でも幸助君は返さない」
白蛇の皇妃のように微笑む凪の前で、坂本は余裕がなさそう。
「幸助は愛されてるんだ」
「僕は違うと思います」
「でもそうなんだ!」
「相手の意見が邪魔なら自分で納得してればいいでしょう」
「うぉぉぉぉ!! どうしたらいいんだ!!」
坂本は自分の中の醜い欺瞞を赤裸々に語った後、絶叫して頭をかきむしった。
年始の月曜午前、小夜、塔吉郎、その部下で構成された、第三、第四部隊混合班は、いつもの打ち合わせ通り、山倉小学校に待機していた。職員に扮した職員室潜入組と、ジョーカー制服のままの建造物潜伏組に分かれている。
小夜達に気づかず洋子がやってきて、職員室の中に乗り込んでいく。洋子が由衣に攻撃。
「あんたが全部悪いんだ! 責任を取りなさいよ」
ジョーカー裏方の活躍で、職員室の入り口と窓の一角が同時に開く。建造物潜伏組として職員室前の廊下天井裏に控えていたのは寺内典也。第四部隊隊員で腕が大きく、握力自慢。彼は天井裏から現場に飛び込んで行って、由衣を抱えると、窓から脱出。セットされていたワイヤーをつかんで、そのまま素晴らしいスピードで屋上まで巻き取られて行った。
実はワイヤーは彼の胴にも装備されているのだが、彼が片手のスーパー握力だけでワイヤーにつられていったように見える。派手好きの凪が演出したらこうなった。
屋上には学校関係者に無断で混合班のテントやグライダーが装備されている。
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