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プロローグ
電話をもらった時、背中にじんわりと汗をかいていた。
「先輩が殺された事件について、話がしたい。」と言われたからだ。
どうしてわたしに連絡がきたんだろう。
もしかして、ばれたのか?
そうじゃなければ、このタイミングで呼び出された理由が思い付かない。
仮に、わたしが彼を殺したことがばれていたとして、どうするつもりなのか?
説得して警察へ行けと言われるのか。
それとも、捕まる前にここから逃げろ、と言ってくれるのか。
どちらにしても、呼び出された以上、行かないわけにはいかない。
もしかしたら自分の思い違いかもしれない。
もしそうだとしたら、怪しまれるような行動は避けないといけない。
軽い化粧をして、部屋着から外用の服(とはいえ、なかなかラフな格好だが)に着替えて靴を履いた。
玄関で一度、部屋を振り返った。
もしかしたら、もうここへ帰ってくることはないのかもしれない。
不思議な懐かしさと寂しさを胸に抱えながら、ゆっくりと外へ出た。
雪は降っていないとはいえ、やはりまだ寒い。
これからもっと寒くなるのだろう。
天気予報でもそう言っていた。
しかし、それでいい。
寒さで凍えていた方が、これから起きる可能性のある悲劇を和らげてくれるかもしれない。
そんな考えは、甘すぎるだろうか。
だってわたしは、あの人を殺してしまったんだから。
でも、後悔はしていない。
悪いのはそう、彼なんだから。
待ち合わせの公園に到着すると、2人の姿を確認できた。
よかった。
呼び出されたのは自分だけではなかった。
ということは、本当に話をしたいだけのようだ。
それでも、油断はできない。
いつかばれるにしても、それは今ではない。
タイミングは、間違えるわけにはいかない。
そうでなければ、1人、いや、2人の人生が大きくネジ曲がってしまう可能性がある。
気を引き閉めて、何事もないような顔で合流した。
それも間違いだったのかもしれない。
2人は、何事もないような顔とは程遠い表情をしていたからだ。
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