集まった3人

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集まった3人

 「昨日の事、どう思った?」 早速、寺田ゆきが聞いてきた。 黒のロングコートを全身に纏い、胸の辺りまで伸びている髪の毛が冬の寒い風になびいている。 コートの左胸にはワンポイントのようにブローチが付いている。 特にお洒落をしているわけではないのに、遠くから見ても体から滲み出ているオーラのようなものは隠しきれていない。 ゆきは大学時代からリーダー的な存在として、いつもわたし達の中心にいてくれた。それは、卒業してからも変わらない。 大学を卒業してからもうすぐ5年になるが、わたし達3人は誰も結婚というものをしていない。 もちろん、いつか結婚したいという気持ちはずっとある。 ただ縁がないだけ、みんな自分にそう言い聞かせていた。 しかし、結婚はおろか、大学を卒業してから彼氏というものがいたことがない。 本当縁だけの問題なのか?首をひねりざるをえない。 わたし達はあまり人が来ない、小さい公園に集まっていた。 人が来ないと言っても、今の時期、公園で遊ぼうなんて子供はいないわけだから、好都合と言えば好都合だ。 上空から見れば、わたし達3人は三角形になるような形で立っていた。 ただし、正三角形ではなく、二等辺三角形といったところか。 2人とは少し離れたところに、わたしは立っている。 どうしても、2人と直接顔を合わせることが出来ない。 だってわたしは・・・。 「朝のニュースを観て、本当にびっくりしちゃった。まさか、先輩が死んじゃうなんて。」 ゆきの言葉を聞いて、村岡あやねは答えた。 学生時代からのトレードマークである黒縁の眼鏡がキラリと光り、その奥で切れ長の目も一緒に光ったように見えた。 どうやら、驚いていないのはわたしだけのようだ。 「いまのところ、事件なのか自殺なのか事故なのか、まだなにもわかっていない。」 「自宅で亡くなっていたみたいだから、事故ってことはないだろうけど。」 「でも、先輩が殺されるような人じゃないってことは、わたし達が一番よくわかっているでしょう。」 「確かに、先輩は誰にでも優しくて、包容力があって、いつもわたし達を笑わせてくれていた。まあ、女癖は、少し悪かったみたいだけど。」 わたしは会話に入っていけない。 入っていく資格もないんだ。 「もしかして、例えば、二股していた彼女のどちらかに殺されたとか?」 「ゆき、冗談きついよ。先輩はそんなことをするような人じゃない。前の彼女の事は綺麗に清算してから、ちゃんと次の人を探していた。」 「そこだけ聞くと、ものすごく嫌な人だけどね。」 ゆきはほんの少しだけ表情を緩めた。今日初めて見る笑顔であった。 「女性にはだらしなかったけど、間違ったことはしない人だった。誰かに恨まれるなんて、ありえないと思うけど。」 ゆきとあやねは会話を続けていた。 いまはそれが無意味であることは、2人にもわかっているはずだ。 だってそれは、すべて憶測の範囲を出ないのだから。 「はるかはどう思う?」 ゆきはここで初めてわたしに話を振ってきた。 どうして会話に入ってこないのかは聞いてはこなかった。 はるかにははるかの考えがあって、いまは黙っている。 ゆきはそう考えてくれているのであろう。申し訳ない。 「うん。」と曖昧に返事をする事しか、いまのはるかには出来ない。 それに対しては、2人はなにも言わなかった。 「残った可能性は、自殺か・・・。」 あやねは、どこか遠くを見るように目を細めて言った。 眼鏡をクイッと右手の人指し指で持ち上げ、また光ったように見えた。 「自殺こそあり得ないよ。仕事だってうまくいっていたって聞いてたし、それに、もうすぐ結婚するって言ってたよ。」 ゆきが少しだけムキになったような言い方であやねに反論した。 2人が熱くなればなるほど、はるかの頭は冷静になっていくのであった。 「でも、先輩が何を思っていたかなんて、本人しかわからないよ。わたし達の知らないところで、自殺したいような、何かがあったのかもしれない。」 「なにかって何?」 「それは、わからない。」 そう、わかるはずがない。そもそも、自殺の理由なんて1つも存在しないんだから。 彼は、自殺ではない。 殺したのは・・・。 「とにかく、先輩はわたし達が大学時代のサークルで大変お世話になった人。警察なんかに任せていられない。この事件、わたし達の手で真相を見つけ出そう。」 ゆきが拳をグッと握りしめて言った。 昔からの癖は今も直っていないようだ。 「でも、どうやって?」 「まずは現場検証ね。」 おそらく、警察のドラマか映画を観て知っている言葉を言っているのだろう。ゆきの発言する現場検証、という言葉がこの場では大きく浮いているようであった。 「でも、先輩の家はまだたくさんの警察官が出入りしている。わたし達が行ったって、相手にもしてもらえない。」 「じゃあどうするの?」 2人の間に沈黙が訪れた。 なにか策がないのか、必死に考えているのだろう。 もう限界だ。これ以上、2人に迷惑をかけるわけにはいかない。 はるかは震える掌を、先程のゆきのようにグッと握りしめ、声が震えないように唾液でカラカラに乾いた口内を濡らした。 2人から外していた目線をしっかりと前に向け、足を一歩踏み出した。 これを言えば2人は驚くだろう。いや、驚くだけならまだいい。 わたしを蔑み、罵倒し、警察に突き出すかもしれない。 それでいい。むしろそうしてくれた方がいい。 大切な友人を傷つけたくない。 わたしのことを嫌いになって、こんな犯罪者の事はすぐに忘れてしまえばいい。 さようなら、ゆき、あやね。
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