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なにごとも、ヒトゴトでいるのが好きなんだと思う。
ちょっとした刺激とか、感情が波立つような出来事とか。
そういうのは、すぐ隣の人間の身に降りかかるくらいがちょうどいい。俺は当事者でいたくない。
*
さっき給湯器を貸してくれた先生に許可をもらい、汚れたバケツと雑巾をお湯でじゃぶじゃぶと洗った。
生徒会の副顧問の先生と、西谷さんが歩いていくのを窓越しに見つけ、ぼんやりと眺めた。
歩きながら揺れる西谷さんのミディアムヘアを見つつ、ひとりの男の顔が思い浮かぶ。
「みっつーん、いたいた」
たった今浮かんだ顔が実際にやってきて、ふっと笑いが漏れた。
「あ、お前。お湯で雑巾洗ってるのかよ」
「寒いから。水で洗ったら、指がちぎれると思うんだよ」
「まあ、確かに」
「さっきはコーヒー、ごちそうさま。よく俺の好み知ってたね」」
「みっつん、いつも真っ黒の缶持ってるから。無糖派なのは知ってた」
天然そうな顔をして、この榛名は人のことをよく見ている。
その点においては自分と似ているが、榛名はそのチャンネルが違う。
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