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プロ野球の試合が中止されてる球場横の道を抜けて大通りに出ると、目指す『多力食堂』のある道路沿いの商店街が見えてくる。店は、昼時は混み混みやけど、午後の1時半にもなると空いてくるのを知ってたオレは湧き上がる高揚感にウキウキしはじめた。
カツ丼の大か……2年ぶりや。あの時はギリギリの完食やったなぁ。さぁ、来んかい。相手にとって不足はないで。
オレの眼中には、もう村田はおらんようになってた。
*
「あれ、由梨と違ゃうんか?」
あろうことか、オレは店の前におる由梨を発見して驚きの声を上げた。ええ格好しょう思て、村田がメールしよったんやろっちゅうことは、すぐに察しがついたけど、オマケまで付いとるやないか!
「なんで2人連れなんや?……」
絶句した村田の顔は引きつっとったから、これもすぐに察しがついた。連れの男は確か、北山とかいう村田と同じクラスのイケメン。ちゅうことは、目の前の2人は付きあっとって、オレに気があるっちゅうのも、きっと由梨が村田にノリで言いよったんやろう。くそっ、なんちゅう酷いことしよる女や。
店の前で2人に合流したオレは村田に囁いた。
「どないすんねん?」
「そやなぁ……」
「えっ。何なん? どないしたん?」由梨が耳聡くオレらの会話を拾って村田に詰め寄った。「さっき村っちゃんのメール見て、めっちゃ楽しみにしてたのに。2人で大食い競争すんやろ? まさか、しいひんの? 何でなん?」
「『何で』って言われてもなぁ……」
「ここ爆盛りの有名店なんやろ、村っちゃん? 私めっちゃ見たかったのに! なぁ、北山君も楽しみにしてたやろ?」
北山は、さして興味もなさそうに「うん」とだけ頷いただけやったけど、ええ加減、この状況に嫌気がさしてきたオレは正直な気持ちを表明することにした。
「オレは食うて帰るで、お腹も空いてるから」
「村っちゃんと競争してくれるん?」
「いいや。競争はせえへん。食いたいから食う。それだけや」
「じゃぁ、村っちゃんは?」
「そやな。そしたら俺も食べよか……」
「よっしゃーっ! やっぱり大食い競争やー!」
はしゃぐ由梨の姿に、オレは村田が、ちょっとだけ可哀想になった。
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