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久しぶりの教室の中は新鮮で騒がしく、そして雑多な感じがした。
窓とドアをぜんぶ開け放ってあるほかは、なんも変わってないはずやけど、この2週間っちゅうもんは、ほとんどスマホとオンラインゲームでしかクラスメイトと繋がってなかったから、たぶんそう感じるんやろう。
あちこちで騒ぎまくる声はうるさいけど、なんや気持ちえぇ。
オレは学校から前日に配信された一斉メールの内容を無視して、クラス担任が来るまで仲の良いクラスメイトと至近距離での談笑を目いっぱい楽しむことにした。
いま世界中で蔓延してる新型感染症がなんやっちゅうねん。
そんなもん、無事に2年へ進級が決まった高校生には大学受験以上、いや春休みの教科課題以上に関係あらへん。それに今は完璧に春休みや。
せやから、みんなの話の中心は新学年用の教科書の引き換えが終わったあと、どうするかっちゅうことばっかし。
もちろん町中で遊ぶに決まってる。
*
「終わってから、カラオケとか行く?」
箱入りのチョコ菓子を勧めながら、頼子が仲間の意見を求めた。
「カラオケ店は、どこも閉まっとったで」と、オレ。
「そしたら、ファミレスとかにしような」と、頼子の太ももに腰かけた小柄な麻美が菓子を頬張りながら話をまとめにかかる。
「なんでファミやねん?」
ジュースを飲みながら浩介がつっこむ。
「だってな。生徒は臨時休校の割引きで、どっこも安いって言うてたよ」
「あれは小坊と中坊だけやろ。小学生で通るお前だけは別やけどな、どチビ」
「誰が、どチビじゃ。お前、ほんまにグーで殴ったろか!」
「誠一」オレは浩介と麻美のいつもの楽しいやり取りを尻目に、スマホをいじってる友達に声をかけた。「お前は、ファミでええんか?」
「あかん。今日は帰らな、オカンが家におる。寄り道したら、またキレよる」
「なんでや?」と、麻美とじゃれ合う浩介が誠一に疑問を投げかける。「お前んとこのオバちゃん、今日は仕事とちゃうん?」
「新型感染症で仕事は休みや。オカンがキレたら、鬱とぉしいしな」
「みんな一緒やなかったら面白ないやんか……」
結局、頼子の最後の言葉が仲間の行動を決定づけた。
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