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案の定先に終わったのは東雲で、さっさと片付けてこたつから出て行ったのを見送り、西園寺は手を止めることはなかったが、ちくしょうと心中で毒づく。
夜明けまでに終えることができるだろうか、と一瞬弱気になりかけたのを意地でねじ伏せる。
「ぜってぇ、終わらせてやる……!!」
うおおおおおお、と雄たけびを上げながら、ものすごいスピードで西園寺が キーボードを叩いていると、コトリ、と自分のPC端末の横にビニール袋が置かれた。
「……は?」
なんだ、と西園寺が顔を上げれば、先ほど自室に戻ったはずの東雲と目が合った。
「……知り合いから貰ったけど、僕にはもう必要ないから」
あげるよ、と淡々とした口調で告げると東雲はもう用は済んだとばかりにくるりと踵を返す。
「僕は寝るから」
そう言い残して遠ざかる背中に、西園寺は慌てて叫び返す。
「……礼は言わねぇぞ!」
つい飛び出したのはそんな憎まれ口で、その言葉に返事はなく、ただ彼の部屋の扉の閉まる音が聞こえた。
何なんだよアイツは、と小さく吐き捨て、西園寺はぐしゃりと髪をかき上げる。
ビニール袋に入っていたのは、眠気覚ましの珈琲と糖分補給のチョコレートだ。
西園寺は缶珈琲を開けると、ぐいっと一気に飲み干した。
「――っし! やってやるよっ!」
そして、西園寺が卒論を書き上げた頃には、夜明けが近かったのであった。
<終>
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