道化師

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道化師

 顔に白い化粧を塗った道化師が毎日、城下町で子供達を笑わせていた。  ある日、城下町は畑の豊作を祝う祭りがあった。  街は人で賑わうが、その日は道化師は来なかった。  祭りの次の日、道化師はまた城下で子供を笑わせた。  子供達が笑っているのを見た大人達も、幸せそうに笑った。  ところが、やがて街では突然、飢饉が流行り始めて街には人の姿がなくなっていた。  子供達は道化師の姿が見たくて仕方がなかったが、道化師は城下町の住人の家々を回って、笑わせにいった。  街の住人達は皆、道化師の芸を見て心をほっとした。  やがて飢饉が過ぎ去ると、道化師もいつしか城下に姿を現さなくなっていた。  住人達は口を揃えてこう言う。  飢饉が過ぎ去っても、何故あの道化師も街を去ってしまったのだろう。  道化師さん、どうか城下へもう一度帰ってきておくれ。  そして私たちをもう一度、笑わせておくれ。       町の子供達は寂しそうに、手紙を鳩にくくりつけて道化師に送った。  道化師の返事は、いつになってもこなかった。  今では道化師が居なくても、城下の住人は平和に暮らして幸せに笑っている。  時が過ぎて世界中に道化師の名が広がり、彼の名を皆は永遠に忘れる事が無いだろう。       《おしまい》
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