雪の密室でみる成長した従兄

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雪の密室でみる成長した従兄

『ガーッッ、グンッ…。ガーッッ、グンッ… ガーッ… ッ… グ…』 シオンは、こんなに全力で働くワイパーを見たのは初めてだ。 湿気を含んだ雪が フロントガラスに 次々と張り付いてくる。 まだ 昼間なのに、雪雲が低く垂れ込んでくるのが 国道の向こうに見えた。 「ちょっとした 黒部の雪壁みたいよね。」 シオンは、世話しなく働くワイパーだけを見ながら レンに話かけた。 レンは、少しだけエアコンの温度を上げながら、 「シオンは、こっちの雪は初めてか。凄いよな。 ここだけなんだよ。琵琶湖から冷気が吹き込んで、あーあれ、あの山で跳ね返るとかで。滋賀でも ここだけ局地的に どか雪が積もるんだよ。関西でこの雪って意外だよな。」 つい、レンの方をみて 「あ、やっぱり あたし、冬は来たことなかったよね?!」 と けっこーどうでもいいことを確認してしまう。 「ない。」 ハンドルを握る レンの手は やっぱり叔母と同じように 色白だとも 今 シオンはしっかり確認した。 「でも、さすがに この時期に 大雪は珍しいって、式場の人も言ってたな。まあ、明日は晴れるって教えてくれたから 火葬場も動くだろう。」 ふーん。と頷きながら、シオンはなかなか 緊張が解けない内心を 圧し殺す。 まさか、信楽を出る時 こんな空気に 我が身をおくことになるなんて思いもしない。 雪に囲まれて、密室空間に やはりどうみても 色男前な従兄弟といる。なんて。うん、排他的? 「まあ、言っても 長いこと こっちに帰ってないから 変わってる所もあって、何がなんだかだけどね 」 と、レンは くすり。雰囲気笑いをした。 あー、嫌だなあー、絶対 こっちが考えてること漏れてるよねーとか 。 口にはできない変わりに シオンは話を別に向けた。 「 レンって、今も東京? 聞いた仕事は 研究所で働いてるって?。昔から レンは 頭良かったもんね。」 「ふふ。研究所っていうか、企業の研究室かな。一から研究するんじゃなくて、うーん、なんていうかな。 大学で研究されているのを 企業商品とかシステムに転用するための部所って 解るかな?」 レンのしゃべり方は 記憶と変わらず 穏やかで、クールな研究者向きではないかと シオンは感心する。 「でも、研究するんでしょ?大学でも やってたって叔母さんに聞いた気がする。」 「研究は大学までだな。どっちかといえば、研究営業みたいなもの。大学を回って、会社に使えそうなものを探すってほうが多い。大学時代の人脈は役に立ってるけど。そんな感じかな。」 ここで シオンは 今日二回目の 額に手を当てるしぐさをした。 「今の流し目。会社で、かなりのやり手だよね…」 レンは 意外に大きな声で 笑った。 でも、すぐに 笑いを終って 「今日、シオン 来てくれて良かった。シオンとこしか … 葬式 来ないから」 そう、口を結んだ。
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