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こんなに焦る気持ちになったのはいつ以来だろうか。
「ダメだ。どれだけやっても勝てる気がしない」
夜が更け、梟の声がする丑三つ時。
星が見える空の下、俺は呻いた。
身体がこわばって上手く動いてくれない。
緊張しているのか、ここにきて。
それも仕方ないかもしれない。
明日で全てが決まるのだから。
そのために、これまで過酷な修行に身をやつしてきたし、才能の無いのを努力でカバーし、進むべき道を、どうにかこじ開けてきたのだから。
けれども。
水面三連撃。あれだけはどうやっても防げる気がしなかった。
模擬戦で防げたのは完全なまぐれだ。
もう一度あれをやれと言われても出来ない。
何度もイメージトレーニングを繰り返したが、うまくいく気がしなかった。
「正面から打ち合うしかないか……」
だが、相手は大太刀で、俺は小太刀。
武器の特性を考えると俺の方が不利なのは明白だ。
それを加味しなくても、相手は不世出の天才と呼ばれている女だ。勝てる要素は少ない。
……俺は不器用な男だ。
小太刀を選んだのは、どんな状況にも対応出来るようにするためだったが、そんなことは今も出来ない。
多少、人より体が大きいから格下なら力押しで倒せるが、そんなものは意味が無い。
彼女のような本当の天才に勝ってこそ意味がある。
だから、最後まで足掻き続ける。
「今日は眠れそうにないな……」
ホー、と梟の鳴く声がした。
空は暗い。
時間はまだある。
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