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こんなに本気になったのはいつ以来だろうか。
私は道着と袴を着て、日課の鍛錬を一人でしていた。
最終調整だ。
「せいッ!やぁッ!」
木刀と木がぶつかる音が聞こえる。
最高の音を自分で探すことが出来る、剣の修行が好きだった。
だけど、今日の私は違っていた。
理想的な音が聞こえる。まるで神様が私の体を使って、剣の振り方を教えてくれているみたいだ。
空は藍とオレンジの入り交じったカクテルのようになっている。
もう日没だ。
気持ちの良い夕風が吹き、メンタルは緊張しすぎない最高のコンディションを保っていた。
「ふぅ……」
長い髪をかきあげて、タオルで汗を拭う。
木刀から真剣に持ち替えて、今日の総決算を行う。
「はぁッ!!!!」
練習用の人形に向けて袈裟斬りが放たれた。
剣が奔り、ひと息にして冴え澄渡る三本の平行線を描く。
水面三連撃。
私が最も得意とする技だ。
人形は木片となってその場にバラバラと崩れ落ちた。
模擬戦の時は防がれたけれど、これなら防御も回避もさせない。真っ向からの力勝負ができる。
「絶対に勝つ、あの男に」
天才と呼ばれた私が、同年代で唯一勝ち星を取れなかった相手。
雪辱は他でもない私が晴らす。
私こそが。
明日に備えて今日はいつもより早く眠ることにした。
夕日が真っ赤に燃えていた。
時間はない。
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