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肩を落としたまま、校門を出る。するとそこに七瀬が立っていた。
「相変わらずバカだねぇぇ。せっかく応援してあげてたのに」
言い返す言葉もない。
「やっぱ俺、何やっても楠木には勝てないわ」苦笑しながら言った。
「カズマが楠木に勝てるわけないじゃん!」
「うっせぇ。バカッ」
それから二人は無言で歩いた。そんな時間をはじめて気まずく感じた。ただ、俺にはどうしても確かめなきゃならないことがある。覚悟を決め、七瀬に声をかけた。
「告白──うまくいった?」
「告白? なんの?」
「なんのって──楠木に思いをぶつけるって言ってた、アレだよ」
「あぁ、あれねぇ。おもしろいこと教えてあげよっか?」
七瀬は口でドラムロールの真似をしながら、小刻みなジェスチャーを繰り返した。
「実はねぇ。ほんとはあの日、楠木にフラれたあとに、カズマに相談しに行ったんだ」
この世界からすべての音が消えた。オレンジなのかピンクなのか区別のつかない夕焼けに染められたまま、七瀬の言葉が号砲のように、俺の心を撃ち抜いた。すべてを吹っ切ったように笑いながら俺を見つめる七瀬は、間違いなくこの世で一番かわいかった。
「あの日、真剣に話聞いてくれて、応援までしてくれて、ほんとにありがとう。すごく嬉しかったよッ!」
「せっかくなら、七瀬と楠木がうまくいけばいいなぁ──って思ったからさぁ」
嘘をつくな俺。俺もほんとの気持ちを七瀬に伝えろ。後悔するぞ。それでいいのか?
「カズマってさぁ、いっつも楠木のこと意識してるよね。俺は楠木に負けてるって」
「あぁ」
「劣等感?」
「──かな」
「でも、カズマは一等賞だよ」
「え?」
「ワタシにとってかけがえのない、最高の友だち。キミに金メダルを差し上げようッ!」
七瀬は両手で大きな輪をつくりながら、俺の首にお手製のメダルをかけようとしてきた。七瀬の瞳が俺のすぐ目の前にある。ずっとずっと好きだった七瀬。俺はきっと、これからもずっとずっとお前のことが大好きだ。
「もし──俺が、七瀬のこと、好きって言ったらどうする?」
七瀬の動きがピタッと止まった。俺は本音を漏らしたことを後悔した。楠木にフラれて失意の七瀬に、自分の身勝手な本音をぶつけるなんて。またしても俺のスタートはフライングだ。
「って、冗談に決まってるだろ。マジになるなよ。バーカ!」
七瀬の表情が緩んだ。それを見て少し安心したけれど、やっぱり悲しかった。
「久しぶりに楠木と三人でカラオケでも行かね?」
「いいねぇ。行こ行こッ!」
友だちとしては金メダルをもらえた。ただ、友だちなんてただの予選だ。俺はインターハイに出場して優勝を目指す。負けられない戦いはまだまだ続く。
はしゃぎながら走り出した七瀬の後ろ姿を追うように、俺の足も力強く地面を蹴り上げた。
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