決着は10秒後に

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 あの夜のことを思い出した俺の身体は、さらに加速を増した。この走りができていれば、インターハイでもきっと優勝できただろうな。さぁ、楠木よ。得意の加速を見せてみろ。  視線を再び隣のレーンに移すも、楠木の姿はない。あまりにもおかしすぎる。ゴールラインは迫ってるんだぞ。楠木が真横にいないなんておかし過ぎる。  ふと頭が冷静になり、違和感の正体に気づきはじめた。すると、ギャラリーたちの笑い声の意味が理解できた。もしかして!?  予想は的中。背後を振り返ってみると、楠木はスタート地点に立ったまま、ウォーミングアップを続けている。 「えぇ!? フライング!?」  叫びながら、俺は地面に突っ伏した。もうダメだ。今の走りですべての力を使い果たしてしまった。仕切り直したとしても、楠木には絶対に勝てない。ギャラリーの笑い声の中には、落胆する声も混じっていた。  再びスタート地点に立つも、緊張の糸は既に切れていた。号砲への反応も遅れ、スタブロを蹴る足にもうまく力が入らなかった。楠木の姿はみるみる遠ざかり、完膚なきまでに叩きのめされた。こうして俺と楠木の戦いは、あっけなく幕を閉じた。
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