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「シルベールが一緒なら入ってもいい」
一年経っても未だに一人で風呂にすら入れない、この偉そうな男は一体何をほざいているのか。
脱いだ服がセミのぬけがらのように点在し、何に使ったのかこれから使う予定なのかは知らないけど見たことも無い容器がいたる所で牙をむいていて、どこから持ってきたのか文字を習っていない俺には読めないけど重要そうな紙が多分空から降ってきたんだろうなという風にそこいら中に散らばっていて、何故ここに?と思うような野菜の切れ端なんかも落ちているココは、魔王ガルデリカの寝室だ。
そんな部屋を通る道すがら服を抱え、通るのに邪魔になりそうな物は足で避け、とりあえず道を作る。
そこだけは昨夜のうちに片付けておいたのだけど、ベッドにアホみたいに優雅に寝そべってバカみたいなことを言っているこの世の全てを統治するだけの力と魔力、そしてそれを可能とする知能と美貌を兼ね備えた魔王様はその美貌をどう思っているのか。
寝起きの漆黒の長い髪はあちこち絡まってあらぬ方向へと向いているし、しっかり寝てツヤツヤの肌には腕なのか枕なのか「ここにコレありましたけど」って痕が存在を主張してるし、誰が作ったのか最高級品のシルク出てきている寝間着はその存在意義がわからなくなるほどぐちゃぐちゃだし、こっちも多分最高級品であろう寝具もそこにいる人がそれなりであれば寝乱れたシーツのシワとか、それこそそのケのあるやつが見れば一発で前屈みになるであろうそれも床に落ちていたり足元で丸まっていたりするともうこの人はなんのために復活したのかわからなくなる。
「ガキじゃねぇんだから風呂くらい一人で入りやがれ」
大きなため息とともにそう呟いたって我らが魔王様には通じない。
「シルベールはほんと、失礼なんだから」
だいたい魔王って言うくらいなんだからそれなりに使える人(魔族)はいるわけで、腹が減ったと宣えばハイハイと食事が用意されて着替えたいと言えば立ってるだけで誰かが服を着せてくれ、外へ出ると一歩でも歩き出せば従者が何十人もゾロゾロと後をついてまわる。
だから風呂専用の従者も作ればいいのに、ガルは身の回りの世話を俺以外にさせたことがない。
俺が来る前も、来てからも。
なぜかと言うと、俺が来る前は風呂に入ってないからだ。そして着替えも。
食事と外出だけは俺の関係の無いところでやってるみたいだけど、それ以外の一切を俺に丸投げするのはどうなんだと側近ディブィに詰め寄りたい。怖いからしないけど。
俺のような庶民の田舎者には全く素質がないけど、世の中には魔法ってヤツがあって火をおこすのも水を出すのもその魔法があれば屋根さえあれば生きていける。らしい。
とくに魔族は生きる糧が「生きとし生けるものの生気」となればそれを与えてくれるものがあれば何もしなくていい。狩でさえも。
ただ着替えもしなくていいのか、風呂にすら入らなくていいのかといえば、それなりにそれに変わる魔法があるのだから必要ないと言えば必要無い。
だからといって復活してからの数年間も入らないでいると、それを魔法で補っていたとしても汚れは残るし匂いだって無くならない。
だからサッサと風呂入ってさっぱりしてくればいいのに。
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