まだ誰かのお兄ちゃん。

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. . 目覚めたら、朝だった。 俺は仕事を土曜日からずっと休み続けている。俺の会社は他の会社とは違い月曜日と火曜日が定休日だから月曜日の今日は本来の休みの日ではあるのだけれど… 「……どっか出かける気にもなれないな」 妻が行方不明になってから早四日目。 俺はこの二日間まともに外に出歩いてない。 携帯の着信はほとんど会社と警察、友人も電話はしてくれるが気分が落ちているため気まずくなって毎回電話を切ってしまう。 辛かった。 どうしたらいいのか分からなかった。 空虚になった一軒家、まだ新築の俺達の家は二人で暮らしている時はそこそこ広いと思う程度だったのに俺一人になった今ではただただだだっ広く感じた。 「この家、こんなに広かったっけ…?」 俺がぼーっと目の前の壁を眺めていると携帯の着信音が鳴った。 こんな朝早くからなんだろう。 また何か会社からの業務連絡だろうか。 俺は待受画面を見た。 「へ、ゆきと…?」 . . 『お兄ちゃん久しぶり! 元気にしてた? て、お嫁さん行方不明になっちゃったんだし元気ではないよね…』 「………」 『お兄ちゃんのお嫁さんのみゆきさん行方不明になっちゃったってお母さんから聞いて僕びっくりして… あ、お兄ちゃん今電話しても大丈夫だった? 僕つい昨日教えてもらっていても立ってもいられなくなって電話したんだけど…』 どうやら俺のことを心配して電話をかけてきてくれたらしい。 「別に、大丈夫…」 『よかった〜、お兄ちゃんありがとう! ……お兄ちゃん大丈夫? お嫁さん突然いなくなっちゃって不安だろうから…… お兄ちゃん不安なら不安って言っていいよ、僕弟だし、別に言っても困る存在じゃないでしょ?』 ゆきとは大丈夫だよ、と優しく言ってきた。 何故だかその言葉で俺は安心してしまった。 そして安心したからか涙が溢れてきてしまった。 「ゆきと、ゆきと…っ」 『うん、ちゃんといるよ。 大丈夫だよお兄ちゃん。』 「ごめん、俺なんか安心しちゃって… ゆきとの声聞いて、安心しちゃって…っ…」 『うん、大丈夫だよ。 お兄ちゃん、僕の前では泣いていいからね。お兄ちゃん強いからきっと誰の前でも泣かなかったんだよね。無理してたんだよね。 大丈夫だよ、僕の前では泣いていいよ。 無理しないでいいんだよ、僕は何があってもお兄ちゃんの弟だしね。』 「うっ、あ…っ…」 その時俺は久々に誰かの前で泣いた。 弟は落ち着いた声で大丈夫、と言ってくれてその声で俺はさらに涙が止まらなくなった。 不安な気持ちが少しだけ和らいだ気がした。
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