予兆のような

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予兆のような

一昨年辺りに婆ちゃん家のトイレで用を足していた時の話。 婆ちゃん家にあるトイレは少し個性的で、廊下側の引戸を開けると手前に洗面台と男性用便器があり、その奥には別の引戸を挟んで洋式便器が置いてある。 さっさと済ませて居間に戻ろうとしていた時、廊下側の引戸が開くような音がした。 この時、普通なら「入ってるよー」「居るよー」と言うべきなんだろう。 しかし、この時私は何故か 「誰ー?」 と聞いていた。 返事は無い。 また聞いてみた。 それでも返事は無い。 引戸の小さな曇りガラスにスッと小さめの白い影が見えた途端、私は咄嗟に戸を押さえていた。 特段向こうが開けてくるわけでもなかったが、とにかく手を離してはいけないと思い力を込めていた。 その間も大声で「誰!?」「ねぇ誰!?」と聞いていたが結局返事は無いまま影は少ししてどこかへ行った。 少しの間怖くて出られなかったが、居間へ戻ったときに「誰かトイレに来た?」と聞いてみた。 誰も入っていないと返ってきた。 「大声出してたんだけど聞こえた?」と聞いてみた。 全く聞こえなかったと返ってきた。 影の特徴を伝えると、猫だったんだよと適当にあしらわれた。 猫なんてこの家に居ないじゃないかと思いつつ、そういうことにしてその日は帰宅した。 婆ちゃん家では去年の夏頃から猫を飼い始めた。
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