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僕の名は「錺(かざり)龍樹(りゅうき)。
この春大学に入学し後10日ほどすれば十八歳の誕生日を迎える。
出身地は・・
此は少し説明が難しい。
と言うのも僕の生まれた場所は九州の宮崎県と大分県の境に有った山村だったらしいのだが、今は村ごと東京唯一の山奥、奥多摩の更に奥に移住しているからだ。
もっとも僕の家族は父の仕事の関係で都心のマンション暮らしで村に帰る事等滅多に無い、この前帰ったのは僕のお爺さんの従兄の娘婿の妹の・・
とにかく遠い親戚の葬式の時で僕は五歳になったばかりだった。
その時の事で覚えているのはたくさんの人が僕の五歳を祝ってくれて父と母に贈り物を渡していた事位か・・
そうそう、その村には少し変わった風習がある。
普通日本では成人と認められるのは二十歳になってからなのだが、村の成人式は十八歳だった。
しかも『村独特の成人の儀式』何て言うものさえあるらしく、一族に生まれた者は十八歳になるとその儀式を受けるために村に戻る事になっていた。
「よう錺、お前もこの大学だったのか」
学食で昼ご飯を食べていた僕に高校で同じクラスだった島原が声をかけてきた。
食事は一人で取りたい僕に気付かず、テーブルの向に腰を降ろすと持ってきたランチに箸をつける。
「なんだ君もここを受けてたのか」
僕は箸をとめて彼の方を向いてそう聞いた。
「ん、二年先輩の高畠さんからここは可愛い女生徒が多いって聞いてさぁ・・
推薦を蹴って入学したのに新入生は男ばっかりで、同じゼミにいる女子はお堅いがり勉ときてる」
島原はいかにもがっかりだと言わんばかりにため息を吐きながら僕を見る。
僕はハハハと空笑いしながら(迷惑)そうな顔を隠した。
「だけど君、たしか彼女いたんじゃ・・」
「そうだけど・・
あいつ別の大学に入ってから様子が変でさ、なんか新しい男でもできたかなって感じなんだ・・
でもまあ仕方ないかな、正直倦怠期だったし」
彼には中学時代からの彼女がいた。
彼女なんて無縁の僕は、下校時に仲良く歩く彼等を少し羨ましく思い眺めた事を思い出す。
(そうか・・離れるとそうなると聞いた事は有るけど)
そう思いながらも何と言葉を返したらいいのか解らない。
それにけっこう難関と言われているこの大学に入る為に、僕は其なりに勉強もしなければいけなかった。
必死に勉強してやっと入学出来た僕とは違い、彼は余裕に入ったと言われてるようで嫌な気がする。
だが彼はそんなに僕の気持ちには気付かないのか話を続けた。
一通り話終えたのかランチのトレイを片付ける。
僕のトレイを覗くと「お前、食べるの遅い」と笑いながら僕が食べ終えた分の食器を自分のトレイに乗せ片付けてくれ、そのまま食堂から出て行った。
(なんか・・良い奴なのか?)
まだ食べ終わらないサラダを見ながらそう思った頃、
彼は両手にペットボトルを持って戻って来た。
戸惑う僕の顔を覗きながらミルクティーを僕のトレイに置いた。
「でもさぁ、錺に会えたからまあ良いかな」
そう言うとニッコリと笑った。
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